「改革をするのに多数決などとりません」

○鷲沢社長:「その件で専務とバトルをするつもりはない、継続して話し合いをしていきましょう、と答えましたね。ちょうどよい機会です、話しましょう。そんなにノルマという言葉が嫌なら、言い換えますか。例えば目標とか、計画とか」

●犬神専務:「ただ、そこに例の言葉が付きますよね。絶対達成が」

○鷲沢社長:「もちろん。目標や計画を達成するのは当然です。ただ、専務がどうしても“絶対達成”が嫌だと言うなら変えてもかまいません。目標や計画の前に“必達”と付けましょう」

●犬神専務:「社長、それではノルマという言葉より厳しい印象が……」

○鷲沢社長:「厳しいとか厳しくないとかそういう話ではないでしょう。目標は絶対達成するもの、計画は必達するものです。そのために予材管理をしようと言っているのです。字面だけ見て、厳しい印象が、などという弱腰で、今期のテーマである新規開拓ができるのですか」

●犬神専務:「……」

○鷲沢社長:「この業界のマーケットは限られています。ライバル会社との競争に勝っていくしかない。残業禁止、ノルマ廃止。やりたい仕事だけ、できる範囲でみなさんやってください。それで勝ち残れますか」

●犬神専務:「そうは言っていませんが……」

○鷲沢社長:「なぜあなたを人事部長にしたかわかっていますか」

●犬神専務:「えっ、社員全員をじっくり見てほしいと仰っていましたが」

○鷲沢社長:「先代の社長をあなたは間近で見てきています。どんな様子だったか、思い出してください。戦いに向かう将校のような背中だったはずです。会社を切り盛りし、重要な取引先をひとりで開拓してきた親父さんの背中です」

●犬神専務:「……」

○鷲沢社長:「目標の2倍の予材をあらかじめ仕込むためには、接触する顧客の件数を増やすとともに、顧客の現場で見聞きしてきたことを吟味し、仮説を立てる力がいる。研ぎ澄まされた感覚で市場を見つめる眼力と言ってもいい。今の社員にその眼力があると思いますか。ノルマは厳しい、業界他社も苦しんでいる今の状況で計画の必達は無理だ、というような姿勢で、研ぎ澄まされた感覚が身に付きますか」

●犬神専務:「む、無理です」

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