「いきなり部長というのはおかしくないですか」

●犬神専務:「これまでも優秀な営業は目標より多めの材料を抱えて動いていたのでしょうが、常に2倍というところまでは意識していなかったはずです。それ以外の大多数は一生懸命やってくれていますが、注文を待つだけというか、自分で考えて仕掛ける、仕込むという発想があまり無かったようです」

○鷲沢社長:「その通りです。予材には、まだ発生していない商談も含めますから、仮説を立案できる力がないと仕込めません。ずっと受け身でやってきた営業には考える力をもっと養ってもらわないと。管理職も目標に届けばそれでよし、という姿勢ではなく、従来のお客様の予材と新規顧客の予材とのバランスを考えることになります」

●犬神専務:「商品開発やマーケティングの担当者にも予材管理の発想で考えさせます」

○鷲沢社長:「そうしてください。今年から、生み出した予材の額を社員の評価指標に加えます。営業はもちろん、商品開発部もマーケティング部もです。お客様に一番近い営業部と連携して、予材の仕込みに協力してもらいます」

●犬神専務:「全社に予材管理の発想が浸透すれば、攻めの姿勢を保った組織に生まれ変わることができそうです」

○鷲沢社長:「とにかく売り上げ目標は絶対に達成する。そのために目標の2倍の予材を仕込み、維持し、2倍を絶対に下回らない。この姿勢を社員全員に持ってもらいます」

●犬神専務:「その絶対達成ですが……。ご存知かと思いますが、懸念材料があります」

○鷲沢社長:「新年早々、懸念材料ですか」

●犬神専務:「私を人事部長兼任にした人事が多くの人にかなりの違和感を与えているようです」

○鷲沢社長:「多くの人といっても人事部を中心とするスタッフ部門だけでしょう」

●犬神専務:「今さらですが、いきなり部長というのはおかしくないですか。私は人事の素人です」

○鷲沢社長:「あなたが将来の社長だということは誰でもわかっています。社員全員をじっくり見るために人事部を担当して当然です。部長という肩書がおかしいというなら、留学先から帰ってきていきなり専務というのはもっとおかしいということになりますよ」

●犬神専務:「そ、それはそうですが。ただ、部長になるにしてもやり方が……」

○鷲沢社長:「前の人事部長を外して参与にし、事実上降格させたことですか。当社の現状を考えず、このご時世ですからなどと言って、営業のノルマを廃止すると提案してきたからです。何度か話し合いましたが分かってもらえないようなので退いてもらいました」

●犬神専務:「社長、私が人事部長になっても同じです。以前もお伝えしたと思いますが、今、この時代にノルマ、ノルマと言うのはよくありません。若い人がついてこないです」

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