私が「ストロング系」と呼ぶ言葉が死語になりつつあります。例えば、ノルマ、スパルタ、鬼上司といった言葉です。時代が変わり、強権的な経営や指導をしづらい世の中になりました。そうした中でどのように企業は勝ち抜き、生き残っていくのでしょうか。
時代の流れとともに考え方を変えたほうがいいとする犬神専務と、それに真っ向から対立する鷲沢社長とのバトルをお読みください。
●犬神専務:「2017年のテーマを新規開拓とする。年初の方針演説でうかがいました。社長の話を聴いて私も燃えています」
○鷲沢社長:「専務、あなたのお父さんが起こした会社です。ゆくゆくはあなたが事業を承継するのですから、しっかりした基盤づくりをしなければいけません」
●犬神専務:「はい。ありがとうございます」
○鷲沢社長:「広告代理店として、ここまで大きくなったのは先代の社長のおかげです。トップセールスによって大企業との太い関係を築いていただきました」
●犬神専務:「ええ、そうです」
○鷲沢社長:「しかし、はっきり言って、良くも悪くも社長の力が強すぎました」
●犬神専務:「……父は典型的なワンマンでしたから」
○鷲沢社長:「現在、当社の重要な取引先は27社です。この27社で売り上げの40%、利益の60%を上げています。ここまではいいとして、問題は重要取引先27社のうち、先代社長が開拓した先が25社もあることです。営業が30名以上いるというのに、たった2社しか大口の取引先を開拓できていないわけです」
●犬神専務:「そ、そうですか……」
○鷲沢社長:「既存のお客様から仕事をいただくことはできても、新たな大口取引先を開拓できていない。これが当社にとって最大の問題です」
●犬神専務:「新規開拓の件は以前から指摘されていましたが、おっしゃる通りです。今年こそ、なんとかしたいものです」
○鷲沢社長:「年初に説明した通り、新規開拓を進めるためにも今年は『予材管理』を定着させていきます。営業部だけでなく、全社を挙げて、予材をしっかり管理しましょう」
●犬神専務:「予材とは商談につながる材料のこと、予材管理とは目標予算の2倍の予材を常に仕込んでおく手法でしたね。目標の2倍の材料を持て、という方針はシンプルでわかりやすいです」
○鷲沢社長:「銀行員だった頃から、いろいろな会社を見てきましたが、マネジメントはシンプルでないと駄目です。複雑な考え方や手法を定着させようとしても浸透しません」
「いきなり部長というのはおかしくないですか」
●犬神専務:「これまでも優秀な営業は目標より多めの材料を抱えて動いていたのでしょうが、常に2倍というところまでは意識していなかったはずです。それ以外の大多数は一生懸命やってくれていますが、注文を待つだけというか、自分で考えて仕掛ける、仕込むという発想があまり無かったようです」
○鷲沢社長:「その通りです。予材には、まだ発生していない商談も含めますから、仮説を立案できる力がないと仕込めません。ずっと受け身でやってきた営業には考える力をもっと養ってもらわないと。管理職も目標に届けばそれでよし、という姿勢ではなく、従来のお客様の予材と新規顧客の予材とのバランスを考えることになります」
●犬神専務:「商品開発やマーケティングの担当者にも予材管理の発想で考えさせます」
○鷲沢社長:「そうしてください。今年から、生み出した予材の額を社員の評価指標に加えます。営業はもちろん、商品開発部もマーケティング部もです。お客様に一番近い営業部と連携して、予材の仕込みに協力してもらいます」
●犬神専務:「全社に予材管理の発想が浸透すれば、攻めの姿勢を保った組織に生まれ変わることができそうです」
○鷲沢社長:「とにかく売り上げ目標は絶対に達成する。そのために目標の2倍の予材を仕込み、維持し、2倍を絶対に下回らない。この姿勢を社員全員に持ってもらいます」
●犬神専務:「その絶対達成ですが……。ご存知かと思いますが、懸念材料があります」
○鷲沢社長:「新年早々、懸念材料ですか」
●犬神専務:「私を人事部長兼任にした人事が多くの人にかなりの違和感を与えているようです」
○鷲沢社長:「多くの人といっても人事部を中心とするスタッフ部門だけでしょう」
●犬神専務:「今さらですが、いきなり部長というのはおかしくないですか。私は人事の素人です」
○鷲沢社長:「あなたが将来の社長だということは誰でもわかっています。社員全員をじっくり見るために人事部を担当して当然です。部長という肩書がおかしいというなら、留学先から帰ってきていきなり専務というのはもっとおかしいということになりますよ」
●犬神専務:「そ、それはそうですが。ただ、部長になるにしてもやり方が……」
○鷲沢社長:「前の人事部長を外して参与にし、事実上降格させたことですか。当社の現状を考えず、このご時世ですからなどと言って、営業のノルマを廃止すると提案してきたからです。何度か話し合いましたが分かってもらえないようなので退いてもらいました」
●犬神専務:「社長、私が人事部長になっても同じです。以前もお伝えしたと思いますが、今、この時代にノルマ、ノルマと言うのはよくありません。若い人がついてこないです」
「改革をするのに多数決などとりません」
○鷲沢社長:「その件で専務とバトルをするつもりはない、継続して話し合いをしていきましょう、と答えましたね。ちょうどよい機会です、話しましょう。そんなにノルマという言葉が嫌なら、言い換えますか。例えば目標とか、計画とか」
●犬神専務:「ただ、そこに例の言葉が付きますよね。絶対達成が」
○鷲沢社長:「もちろん。目標や計画を達成するのは当然です。ただ、専務がどうしても“絶対達成”が嫌だと言うなら変えてもかまいません。目標や計画の前に“必達”と付けましょう」
●犬神専務:「社長、それではノルマという言葉より厳しい印象が……」
○鷲沢社長:「厳しいとか厳しくないとかそういう話ではないでしょう。目標は絶対達成するもの、計画は必達するものです。そのために予材管理をしようと言っているのです。字面だけ見て、厳しい印象が、などという弱腰で、今期のテーマである新規開拓ができるのですか」
●犬神専務:「……」
○鷲沢社長:「この業界のマーケットは限られています。ライバル会社との競争に勝っていくしかない。残業禁止、ノルマ廃止。やりたい仕事だけ、できる範囲でみなさんやってください。それで勝ち残れますか」
●犬神専務:「そうは言っていませんが……」
○鷲沢社長:「なぜあなたを人事部長にしたかわかっていますか」
●犬神専務:「えっ、社員全員をじっくり見てほしいと仰っていましたが」
○鷲沢社長:「先代の社長をあなたは間近で見てきています。どんな様子だったか、思い出してください。戦いに向かう将校のような背中だったはずです。会社を切り盛りし、重要な取引先をひとりで開拓してきた親父さんの背中です」
●犬神専務:「……」
○鷲沢社長:「目標の2倍の予材をあらかじめ仕込むためには、接触する顧客の件数を増やすとともに、顧客の現場で見聞きしてきたことを吟味し、仮説を立てる力がいる。研ぎ澄まされた感覚で市場を見つめる眼力と言ってもいい。今の社員にその眼力があると思いますか。ノルマは厳しい、業界他社も苦しんでいる今の状況で計画の必達は無理だ、というような姿勢で、研ぎ澄まされた感覚が身に付きますか」
●犬神専務:「む、無理です」
○鷲沢社長:「長年当社の現場でやってきている社員より、若いあなたのほうが柔軟に考え、仮説を作れるでしょう。意識はしていなかったでしょうが、お父さんの感覚を知っているはずです。こんな時代だからこそ、その感覚がなければ、限られた市場の中で新規開拓はできません。全社員を見られる人事部長の立場から社員を後押ししていただきたい」
●犬神専務:「社長の意図は了解できました。でも……そんな社長にみんながついてくるかどうか」
○鷲沢社長:「ついてこない人がいてもかまいません。それでも私は全力で仕事をします。率先して新規開拓に取り組みます。改革をするのに多数決などとりません」
●犬神専務:「わかりました……。今年も一年、社長についていきます」
物事には必ず手順がある
「働き方改革」というテーマが新聞でも雑誌でもネットでも盛んに取り上げられています。個人の自主性を尊重し、自由な働き方ができるようにする取り組みを否定はしません。ただし、そうした取り組みの前提条件は強固な事業基盤と財務基盤ができていることです。そのためには目標を当たり前のように達成する仕組みと姿勢が不可欠です。
物事には必ず手順があります。どんなに時代が変わっても、風潮が昔と異なってきても、勇気をもって正しい順番でことを進めなければなりません。
本連載『絶対達成2分間バトル』は2017年も引き続き、経営目標の絶対達成をテーマに「ストロング系」コラムを目指します。どうぞよろしくお願いいたします。
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