読者の皆様、今年も「絶対達成2分間バトル」をよろしくお願いします。本連載は今年で3年目に入ります。営業目標を絶対達成するための勘所を、2分間で読める登場人物のバトル(論争や対話)を通じて、引き続きお伝えしていきます。
本年最初のテーマは「十年達成」です。10年間継続して目標を達成するという意味です。「十」という数字それ自体にあまり意味はないのですが、要するに毎年必ず目標を達成することを指します。
もう一つ、「一年達成」があります。毎年毎年、何とかしようと頑張るものの、年によって目標を達成したりしなかったりする状態を示します。
業種業態に関係なく、三通りの会社が存在します。毎年必ず目標を達成する会社、年によって目標を達成したりしなかったりする会社、そして目標未達成の状態が長く続く会社です。
どうして差が出るのでしょうか。一年達成ではなく十年達成の会社になるにはどうしたらよいでしょうか。社長と営業部長とのバトルを読んでみてください。
●営業部長:「明けましておめでとうございます、社長。今年こそは目標予算を絶対達成させたいと思います」
○社長:「うん、まぁ、頼む」
●営業部長:「3年連続で目標未達成に終わっています。万が一、今年も未達成なら、私は降格になってもかまいません」
○社長:「おいおい、それはやめてくれよ」
●営業部長:「これ以上は我慢できません。今期こそ絶対に達成させます!」
○社長:「気持ちは分かった。だからといって自分から降格をちらつかせるのは無しにしてくれ」
●営業部長:「しかし」
○社長:「意欲は認めるがどうも空回りしている。気持ちが噛み合っていない」
●営業部長:「気持ちが、噛み合っていない、といいますと」
○社長:「現場を見たまえ。君が不退転の決意でやっても現場の行動はどうなのか。意気込みに応じて本当に変わっているのか」
●営業部長:「現場は変わりましたよ。部員の発言は昔と比べ、前向きです。危機感はあります」
○社長:「それはそれで結構だ。だが、私が尋ねているのは発言や感覚ではなく、行動についてだ。行動は変わってきているのか。感じではなく過去の数字と比較して答えてくれ」
●営業部長:「いや、それは、その……」
○社長:「昨年の営業部員の行動と結果を比べてみたか。そういうトレースを昨年も今年もするつもりが君にはない」
●営業部長:「そんなことは。今年こそ、営業の行動をしっかり管理していこうと思っています」
どういう行動指標で管理するか
○社長:「同じせりふを前にも聞いた。まあいい。それでは聞くが、どういう行動指標でしっかり管理するつもりだ」
●営業部長:「そ、それは……。5人の課長がいますから、課長たちの意見も聞いてみないといけません」
○社長:「……」
●営業部長:「課長にも考えがあるでしょうし。彼らの意見を尊重していかないと現場は回りません」
○社長:「……」
●営業部長:「それに第一線の営業たちも色々考えているでしょう。課長を通じて、彼ら彼女らがどうしたいのかを確認して、それから指標を決めたいと思っています」
○社長:「いつから行動管理を徹底できるのかね」
●営業部長:「1月中は難しいです。挨拶回りとか立て込んでいるので。2月に入ってから課長たちと面談し、3月に入ってから課長たちが現場の営業たちと話をして……」
○社長:「……」
●営業部長:「……すみません。社長が言いたいことがようやく分かってきました……」
○社長:「そうか」
●営業部長:「1年前、同じことを申し上げた記憶があります。『そんな悠長なことをやっているうちに3カ月も4カ月も経過してしまう』と社長にどやされたことも思い出しました」
○社長:「いや、それは勘違いだ」
●営業部長:「え……?」
○社長:「君をどやしつけたのは2年前だ。1年前も同じやり取りになったから、2年前と同じ要請を出した。君は『進退をかけてやりきります』と唾を飛ばしながら言っとったが、私からの要請はまたしても右から左に抜けてしまったな」
●営業部長:「……」
○社長:「君を責めているわけではない。同じことを繰り返したのは社長の私の責任だ。自分が無力だとしっかり学んでしまったよ。年初からまったくやる気がない」
●営業部長:「ちょ、ちょっと待ってください。社長……」
○社長:「君たちに何とかしたいという気持ちがあることは分かった。そしてその気持ちが空回りしていることも分かった。今年も空回りだな」
「目先の結果ばかりに焦点を合わせると空回りする」
●営業部長:「今年は、いえ、今年こそ、違います。全員の気持ちを噛み合わせます」
○社長:「本当かね」
●営業部長:「やります」
○社長:「ではもう一度だけ同じことを言う。三つの指標を定義し、それにそってやり切ってくれ」
●営業部長:「三つというと……。『一年予材』『三年予材』『十年予材』ですか」
○社長:「覚えているじゃないか。予材の意味も大丈夫だな」
●営業部長:「はい。案件と似ていますがまだ商売になっていないものですよね。これから発生するであろう案件を推測すると言いますか」
○社長:「推測というより仮説だな。このお客様にどのぐらいの仕事が眠っているのか、その仮説を立ててみる」
●営業部長:「お客様のポテンシャルですよね」
○社長:「ポテンシャル分析をきちんとして、それが1年以内に期待できる予材なのか、3年以内なのか、それ以上の10年以内の予材か、それをつかむことだ」
●営業部長:「はい。分かっているのですが、営業に言っても『10年先のことなんて分かるわけがないでしょう』と言われてしまい……」
○社長:「それは君のせいだ」
●営業部長:「はあ」
○社長:「今年1年の目標を達成しようという気持ちが強すぎる。焦り過ぎだ。目先の結果ばかりに焦点を合わせているから、お客様に売り込みばかりを繰り返す結果になる。そうそう決まらないからみんな焦ってくる。そうして営業部全体が空回りする」
●営業部長:「耳が痛いです」
○社長:「そういう状況で10年先の予材といっても部員は『部長は何を言っているのか』と思うだけだ。まず君が地に足をつけてくれ」
●営業部長:「はい、今年こそは。ただ、ポテンシャルをつかむのはなかなか難しくて。お客さんの状況も色々変わりますし」
○社長:「当たり前だ、そんなことは。推測ではなく仮説だと言っているだろう。事実をつかみ、そこからこのぐらいの商談がありうる、と仮説を立ててくれと言っている。事実は何でもいい。工場を拡張する計画があるとか、新商品を売り出すみたいだとか、子会社を吸収して人員が増えそうだとか、そういうことだ」
●営業部長:「おっしゃることは分かるのですが、現場の営業は忙しくて、なかなかそういう前向きな雑談をする暇がないようで」
○社長:「君や課長が『あの件はどうなった』と聞いてばかりだからだ。そう言われたら現場は売り込みに走る。そうではなく、まずはお客様のところへ足しげく通うことだ。すぐに仕事をもらえないとしても関係を維持できるようにお客様と接触を繰り返したまえ。接触は短時間でいい。まずは情報収集に専念してくれ。お客様のことをしっかり理解しないと仮説を立てることはできん」
行動量が足りないから一発で決めようとして失敗する
営業目標を絶対達成させるために、目標予算の2倍の予材を積み上げ、目標未達成リスクを回避する手法を「予材管理」と呼び、営業コンサルタントの私は多くの企業に提案し、導入いただいてきました。
目先の案件ばかりを追いかけるのではなく、お客様と正しく向き合い、情報を正しく収集して仮説を立てて積み上げていくことが重要です。そうすることで、しり上がりに結果が積みあがり、外部環境の変化とか、商材の差別化要因などによって業績が左右されることが少なくなります。予材管理の狙いは複利効果とリスク分散にあるのです。
短期思考に陥らないように1年という単位ではなく、3年、5年、10年といった単位で予材を積み上げていく行動が営業に求められます。そこでは行動量が物を言います。
行動量が足りないから、一発で決めようとして空回りしてしまうのです。「目標を達成する」という意気込みは大事です。その意気込みを維持しつつ、5年でも10年でも達成し続けるように、考え方と行動を根本的に変えていきましょう。
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