サプライチェーンの再設計は、直接売買するサプライヤーの情報だけでは無理だ。サプライヤーがどこから原材料や部品を購入しているのか。自社の主要マーケットがどこなのか。サプライチェーンや調達・購買の管理部門だけでなく、営業部門とも連携した上で意志決定が必要なのだ。
過去にも、各国の関税政策の影響によって、企業ではサプライチェーンの見直しをおこなってきているはずだ。米中貿易戦争でも、基本的な対処法はまったく変わらない。今回特異な点は、トランプ大統領の意志が色濃く反映されていること。各国を巻き込んだ複雑なサプライチェーンによって、具体的な影響額の測定が難しくなっていることだ。すでに関税徴収はおこなわれている。今後明らかになる影響の見極めは、2019年の調達・購買部門にとって重要な任務となるはずだ。影響が計れなければ、適切な対応などできるはずもない。
実践内容が問われる「持続可能な調達」
2018年はSDGsにまつわる取り組みが拡大した。その影響で「持続可能な調達」の取り組みも進展がみられたとも言える。従来とは異なる業種で「持続可能な調達」をおこなうと公表する動きがみられたのが好例だ。同時に「持続可能な調達」にそぐわない対応の表面化が相次いだのも事実である。
2018年は「プラスチック」の環境に与える影響がクローズアップされた。日経ビジネスオンラインで公開された「忍び寄るマイクロプラスチック汚染の真実」では、東京湾で釣ったかたくちいわしの8割の消化管から、プラスチック片が検出されたと報じられた。プラスチックの使用者である企業では、スターバックスコーヒーや国内のすかいらーくが、プラスチック製ストローの原則廃止が発表されている。
こういった取り組みは、顧客の立場で「選択の要件」として考えられている。環境負荷の大きなプラスチック製品を使用している企業は、投資家からも消費者からも選ばれない機運が高まっているのだ。こういった傾向は、企業で使用されるエネルギーの「ゼロカーボン」化への取り組みにもはっきりと現れている。過去良かったから、今も、そしてこれからも良いはずといった考え方は通用しないと認識すべきだ。自社の購買品が、SDGsや持続可能な調達の観点で、継続的に購入可能なのかどうか。2019年以降、こういった問題が原因でサプライチェーンの断絶が起きるかもしれないリスク認識が必要だ。
労働者の人権問題
今月、改正出入国管理法が成立した。この法律によって外国人労働者の受け入れ拡大が期待される。サプライチェーンのプロセスによっては、人手不足が極めて深刻な事態に陥っており、新たな労働力の確保は喫緊の課題だ。
2018年は、実質的に外国人労働者の受け皿となっていた、外国人技能実習制度の誤った運用が問題になった。明るみに出た問題は、労働者の人権が適切に守られていない事態によって引き起こされた。こういった事態が再発しないためには、来年4月の法律施行までにおこなわれる制度設計内容の理解が欠かせない。日本の移民政策の大きな転換とも言われる法律の運用方法が複雑だったり、わかりにくかったりすれば、被害を受けるのは労働者であり、雇用した企業になる。問題点を指摘され、企業ブランドが失われれば、被害は甚大になるはずだ。そういった観点で、新たな制度を理解した上で、外国人を雇用しなければならない。
外国人を雇用する場合は、受け入れる制度だけではなく、職場の受け入れ体制にも準備は欠かせない。公共交通機関では、英語によるアナウンスや、英語、中国語、韓国語による駅や行き先表示が広がっている。もし外国人を受け入れる場合、社内にも同じような外国人がわかりやすい職場が必要だ。効率的なサプライチェーンを実現するためには、まず最低限快適に働ける労働環境がかかせない。これは、日本人でも外国人でも同じである。
企業の購買と消費者の購買の違いを明確にしよう
4つのテーマで、2019年にサプライチェーンで必要な取り組みを分析した。すべて実際の購買とは関係しているものの、その前工程、後工程にまつわる話だ。今回述べた内容こそ、私たちが消費者として日常的におこなっている購買活動と、企業の購買活動の異なる部分だ。
しかし、消費者や投資家が今、変化している。消費者や投資家は「指摘」すれば良い。指摘を実践して結果を生まなければ、消費者や投資家から選択されない。調達・購買部門が、企業の中で付加価値を創造し、業績への貢献度を高めるために「買わない」部分の業務にフォーカスしなければならない。企業の購買活動に「衝動買い」は許されない。なぜ買ったのか、なぜこのサプライヤーなのかを説明し、納得を得るのが調達・購買部門の責任なのである。
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