トランプ発言の真意を想像する

 全世界に展開されたサプライチェーンで、もっとも大きなメリットを享受してきた国が米国である。その国の大統領が、なぜ自国の繁栄の源を打ち消すような発言をするのだろうか。

 想定される理由の1つが、サプライチェーンが全世界に展開された結果必要となった、米国の対外政策だ。米国国内が工業化され、そしてその後日本、中国、と世界の工場が、経済発展の結果で上昇した賃金によって移転していった。すでにポスト中国として、ベトナムをはじめとした東南アジア、インド、その先にはアフリカへの展開が予想される。まさに、これからもサプライチェーンは全世界へと広がってゆく。

 米国の後、世界の工場になった日本との貿易摩擦では、日本がさまざまな点で譲歩した。しかし、中国はそう簡単に譲歩するという期待はもてない。中国の対応を見てきたこれから発展する国も、果たして日本のように聞き分けの良い対応が期待できるとは限らない。貿易摩擦はサプライチェーンの需要側の都合で生じることが多いが、ここに難しい対応を強いられる。デメリットが顕在化してきたのだ。

 また、世界の工場が移転していった結果どうなるのか。それは今の日本が良い例であろう。サプライチェーンの発展によって、日本の多くの企業が、生産拠点を海外に移転した。加えて非正規労働者を最大限活用し、人件費の抑制に努めている。その結果、例えば中国の沿岸地域では、管理職の給与で日本人よりも中国人の方が高い現象が報告されている。

 日本国内で受けるサービスの価格も、中国や東南アジアの大都市と比較して、ほぼ同じレベルにまで下がっているケースがある。これは、グローバル化が進めばおのずと同一労働同一賃金の実現を意味する。国家が経済的な優位性を保つためには、同一でない労働によって、他国ではまねできない付加価値を生み出さなければならない。現在、米国はグローバルマーケットで稼げる商品やサービスを抱え、新たな付加価値を次々と生み出す土壌がある。この米国のもつ強みを生かさない手はない。

 米国は世界の工場の地位を日本へ譲った後、経済的には長期間低迷していた。現在の40歳代後半以上の世代は、米国の議員たちが日本製品をハンマーでたたき壊すシーンを覚えているだろう。その後、米国は知識集約型産業がぼっ興し、再び繁栄の時代が到来した。その結果、世界最大の消費大国の地位を維持している。今後、中国やインドといった大国が、同じように消費大国となる時代が来るかもしれない。今の米国以上のマーケットが誕生するのである。それは大きなビジネスチャンスだ。

もし生産回帰が実現したら……

 トランプ次期大統領が主張する米国国内への生産回帰は、オバマ大統領が挑戦してできなかった政策でもある。米国で考案したアイデアを製品化する場合、米国国内ではコストが高すぎるのだ。したがって、トランプ次期大統領が主張する生産回帰を実現させる場合、なんらかの痛みをともなう。それは、トランプ次期大統領を支持した市民たちが物価上昇で享受する痛みだ。

 もしも、そういった痛みを受けても、トランプ次期大統領の政策が支持されたとしたらどうなるだろうか。これまで米国に製品を輸出する、あるいはサービスを提供して経済発展を遂げた新興国が、今度は巨大なマーケットとして米国の前に登場する。新興国も米国、日本がたどった道と同じく人件費の上昇に直面する。

 前述したように米国が再び世界の工場として復活するために、最初は痛みを伴う。しかし、インダストリー4.0やスマートファクトリーによる生産方法の進化、GoogleやAmazonといった新興企業のざん新なアイデアによって、人件費の総コストに占める割合が低下していく。そして、中国やアジアには巨大な市場が出現するのだ。米国が「世界の工場」の座に再び返り咲くとき、再び偉大な米国が到来するかもしれない。