空調大手キャリアの工場を訪問したトランプ次期大統領(写真:The New York Times/アフロ)

 約1カ月後に迫った米国の大統領交代。トランプ次期大統領は、就任初日にTPP(環太平経済洋連携協定)からの離脱を宣言すると明言。サプライチェーンに携わる実務者はトランプ氏の発言を今、かたずを飲んで見守っている。

 現時点では発言にともなう政策の全貌は明らかになっていない。サプライチェーンにどのような影響をおよぼすのか、その影響が明確になるだけでも、就任が待ち遠しいと感じるビジネスパーソンは多いはずだ。果たして、ビジネスセンスにたけたと言われるトランプ次期大統領が描く米国の未来、そして米国民の日常生活を支え、日本をはじめとする世界に大きな影響を与えるサプライチェーンはどのようになるのだろうか。

発言に呼応して動くApple

 選挙中のトランプ次期大統領の発言、例えばTPPからの離脱や中国からの輸入品に35%の関税を適用するといった内容は、どのような意味を持つのか。そこには、世界に広がったサプライチェーンを活用して豊かな消費生活を実現してきた米国社会を劇的に変える可能性を秘めているといえる。

 既にAppleなどはiPhoneを米国国内で生産することを検討していると報道されている。高い関税を支払うくらいなら、関税分のコストを高い賃金として米国社会に還元した方が良いとの判断だろう。

 iPhoneに限らず、中国やメキシコから多くの製品が供給され、米国国内における日常生活が維持されている。米国以外から供給される理由は、米国より国外の方が労働者の賃金が安いからだ。メキシコや太平洋を隔てた中国などで生産し輸送した方が、米国国内で生産するよりも安くなる。ところが安い製品を供給するために世界各国に張り巡らされたサプライチェーンを、米国国内へ戻しかつ完結させるのが、トランプ次期大統領の主張だ。

 しかしiPhoneを構成する部品がすべて米国内で生産されていないのは周知の通りだ。組立工程だけを米国国内に回帰させても、雇用への影響は限定的だろう。かえって消費者の負担が増えるだけかもしれない。中国に代表される新興国で生産した製品に輸入関税をかければ、市場での価格差は解消される可能性が高まる。どちらも米国国民が最終的な負担を余儀なくされる。トランプ氏が主張する政策の実現で、市場価格がアップしたとき、大統領選挙と同じようにトランプ氏を支持できるかどうか、今後も注意して見守らなければならない。

自由貿易推進は米国の成長エンジンだった

 これまで自由貿易は、米国が主体的に推し進めてきた。自由貿易によってメリットが享受できると考えられてきたからだ。自由貿易のメリットを享受するためには、3つの条件が必要だ。1つ目は自国の工業製品に優位性がある場合。2つ目は、自国の消費規模と生産規模がアンマッチしている場合。3つ目は自社に生産するためのリソースがない場合である。

 この3つの条件を考え合わせると、米国は世界一の消費大国を維持するために、全世界にサプライチェーンを張り巡らせたといえる。Great Americaを実現させるために必要だったのだ。

 そしてサプライチェーンには、もう1つ重要な構成要素である「情報」が必要だ。世界に展開したサプライチェーンを維持するための情報技術で、米国はマーケットに確固たる地位を築いている。貪欲な消費者のニーズに応えるための、情報通信技術を駆使した、新たなサービスの開発と展開は、世界で最先端の技術も数多い。米国が今、もっとも競争力を持っている製品は、サプライチェーンの基盤を構成するインターネットに代表される情報通信技術を活用したサービスだ。