トランプ次期大統領が勝利したのは、行き過ぎたPCのせいだという。PCとはポリティカル・コレクトネスの略で、政治的に正しいことを指す。米国には、非本音主義ともいうべき、建前論が横行している。全員が平等だ。弱者を救え。つねに言葉を選べ……。そのようなPCに実はウンザリしていたのが米国民そのものだった。
だから、トランプ氏のような本音をぶちまける候補者に人気が集まったのだ、と。だからこそ、隠れトランプ支持者を含めて支持が拡大し、それはまさかの泡沫候補を米国次期大統領に引き上げるにいたった。
私は米国で仕事をしたことがあるものの、まだ米国民の心情を理解しているとまではいえない。だから、本当に行き過ぎたPCへの反動が世の中を覆っていたのか。断言は避けたいと思う。
しかし、個人的にいうのであれば、米国の知人から「クリスマスセールとはいわなくなったんだよ」と聞かされて衝撃を受けたことがある。「クリスマスの時期って、全員が楽しむだろう。つまり特別な時期だ。他の時期とは違う。そのときに、『クリスマス』っていってしまうと、特定の宗教者しか楽しめなくなる。だから、ブラックフライデーか、もしくはホリデーセールというほうが今風かな」と。
米国のブラックフライデーは好調に推移
2016年もブラックフライデーがはじまった。これは主に米国で最大の小売セールを指す。11月の第4木曜日が終わってから、年末にかけて、商業施設がもっとも盛り上がる時期でもある。日本では年末セール、クリスマスセールといわれているが、米国ではかなり長めに設定されている。
トランプ氏が次期大統領候補に選ばれた懸念もあった。しかし、ふたを開けてみると、かなり好調のようだ。米アドビシステムズはデジタルマーケティングのレポートを公開している。それによると、今年はブラックフライデー1日で、オンライン業者だけで30億ドルもの売り上げを記録したようだ。
これらのオンラインサイトでは、ご丁寧に品切れする可能性のある商品も羅列してくれており、「妖怪ウォッチ」「ニンテンドー2DS」などが挙げられている。どの時代にも、子ども向けのおもちゃはクリスマス商戦の主役ということだろう。
そして現在のヒットといえば、Hatchimalsだ。知らないお父さんにはリンク先を見てほしいとしかいいようがない。たまごっちの巨大版というか、ぬいぐるみというか。少女たちに大人気のアイテムだ。売り切れ店が続出し購入が困難になっている。
ネット販売の勝利
ところで私は、買いに行った当日にお目当てのおもちゃを購入できなかった経験が何度もある。計画不足といわれたらその通りだ。しかし、当日までなかなか気が回らない。そこで、やはり便利なのがネットだ。
米国では当日配送のできない地域が多い。ただ、数日前に注文すれば、おもちゃ屋で在庫不足を嘆くことなく、自宅まで運んでくれる。
その意味で2016年に、あまりに明確になったのは、やはりネットとスマートフォンの勝利だ。リアル店舗ではなく、消費者はネットを選んでいる。米ウォルマートは「ブラックフライデーのイベント期間中にトラフィックの7割以上はモバイルからだった(More than 70 percent of traffic to Walmart.com during the retailer’s Black Friday event was driven by mobile.)」と述べた。また米ペイパルの興味深いレポートによれば、10人に2人はトイレのなかで商品を購入した経験を持ち、あるいは34%の消費者は妻や恋人が隣で就寝しているときに買い物をしている。これはリアルな店舗ではできない消費特性だ。
もちろん街に繰り出して店に入り、そして散財する……といった習慣が一瞬で崩れることはないだろう。しかし、やはり徐々にスマホやネットの優位性が見て取れる。そのなかでも勝者と言ってよいのはやはりアマゾンだろう。
ブラックフライデーでも勝利したアマゾン
集計の方法が不透明ではあるものの、各メディアが報じた数字を見てみると、今回のセールにおける、各商品の平均割引率は、企業ごとにわけると次のとおりだった。
- ウォルマート:平均ディスカウント率33%
- ターゲット:平均ディスカウント率35%
- ベストバイ:平均ディスカウント率36%
- アマゾン:平均ディスカウント率42%
販売価格として、アマゾンがお客にしてみれば圧勝していることがわかる。消費者が価格に敏感になり、価格比較に精を出す時代にあっては、この差は大きい。
さらに驚くのは、アマゾンが販売した中でアマゾン自身の商品がベストヒットしていることだ。その商品は「the Amazon Echo Dot」という。このマシンは、音声認識ソフトを搭載しており、いわゆる話せるロボットだ。サイズは手のひらに入り、Amazon Prime Musicを流すジュークボックス代わりにもなるし、キッチンタイマーにもなるし、家電のオン・オフも操作してくれる。ウーバー経由でクルマも呼んでくれるし、ドミノ・ピザの注文だってできる。
このなかにはアマゾンのアレクサ(iPhoneに搭載されたSiriのアマゾン版だと思えばいい)が搭載され、「アレクサ」と声をかければ操作が可能だ。たとえば、「アレクサ、あれ注文しといて」といえば、日用品の発注も請け負ってくれる仕組みだ。
このアレクサ対応の商品群は、あまりにも売れたために在庫切れとなった表示が続いていた。自社商品がもっとも売れ行きが良いとは、アマゾンは単に小売業ではなくなっている事実を示している。
Amazon Dash Buttonの日本発売
12月5日から日本でも「Amazon Dash Button」が発売された。これは、商品が品切れのときにボタンを押すだけで補充してくれるサービスだ。ボタン自体は500円かかる。しかし、実質的には500円割引になりタダだ。
これはアマゾンが米国で先行していたサービス「Amazon Dash」の進化版で、かつてはバーコードを読み取ることで即発注できていたものだ。注文のしやすさはそのまま購買量の増加につながっていく。日本で発売されたボタンを見てみると、洗剤アタック、サントリー天然水、ハミング、エビアン、レノア、キリンパーフェクトフリー、シーブリーズなど40種類を超えるものが販売されている。
米国では前述の通り、Amazon Echoシリーズが発売されており、ボタンで押させる行為を進化させて、ロボットとの対話の中から消費を醸成させようとしている。おそらく、最終的には家の情報をすべて吸い上げて、自動補充まで支配することをアマゾンは狙っているだろう。良くも悪くもなにも考えずとも日用品はアマゾンが勝手に納品してくれる世界を目指しているに違いない。
この自動化を私はさっそくトライしてみたいと思う。できるなら、Amazon Echoシリーズも日本展開とともにトライしてみたい。「うわ、俺、機械に話しかけてるわぁ」とむなしい気持ちになるか。それとも「うわ、こいつ(アレクサ)なかなか可愛いやつじゃん」と思うか、私の気持ち自体をテストしてみたいのだ。
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