11月23日に発覚した三菱マテリアルの子会社による検査データ偽装問題。先月発覚した神戸製鋼所の問題が冷めやらぬ状況下の発表に衝撃が走った。両社とも製品の原材料や素材を供給するメーカーだ。両社の顧客は国内企業だけではなく、海外にも広がっている。現在、両社が納めた材料を使用して稼働している機器も多く、影響の拡大は避けられそうにない。航空機をはじめとした人命に関わる製品にも多数使われており、早急な安全性の確認が求められる。
サプライチェーンに沿って連鎖した不正行為
安全性が確保された後は、再発防止策の確実な実行が欠かせない。これまで、さまざまな業種で、残念ながら「偽装」は繰り返されてきた。過去には、サプライチェーンの上流で発生した偽装問題が、数年後に同じサプライチェーンの下流で類似の偽装問題が発覚している例がある。
2002年、複数の大手食肉加工会社による不正が発覚した。BSE(牛海綿状脳症)問題対策だった国産在庫牛肉の買い取り制度を悪用し、輸入牛肉を国産に偽装し公金を詐取した事件だ。2001年10月18日からすべての牛の解体時にBSE検査が義務づけられた。それ以前に解体され保存されている牛肉を対象に、国が業界団体に助成して買い取らせていたのだ。不正を起こした企業の中には、解散や破綻に追い込まれた企業もあった。
続いて2007年、食肉加工卸会社による偽装問題が発覚した。牛肉コロッケ材料として、牛肉に豚肉や豚・牛の内臓を混ぜたり、豚肉だけのひき肉を牛ミンチと偽ったりして出荷していた。牛ミンチに外国産牛肉を混入させたにもかかわらず国産と表示したり、冷凍食品の賞味期限を改ざんしたり、偽装のオンパレードだった。2007年は、ブランド鶏肉や、各地の名産の菓子といった有名な食品でも、次々に不祥事が発覚し、流行語大賞でも「食品偽装」が、ノミネートされるほどであった。
そして2013年には、ホテルや有名百貨店による食品の偽装表示が次々と発覚する。使用している食材よりも良い=高級な食材と誤認させる虚偽表示が相次いで発覚した。この問題は2014年「不当景品類および不当表示防止法」の改正の契機になり、コンプライアンス体制の確立が、新たな事業者の義務になった。
サプライチェーン全体を視野にした再発防止策
一連の食品にまつわる偽装問題は、最初に食肉加工会社、続いて卸、最後には消費者と直接接点をもつデパートやホテルへと、時を隔てて連鎖していった。食料品サプライチェーンの上流から下流へ偽装行為が拡散していったように映る。このような不正行為を、自社を起点としたサプライチェーンに流出させないためには、再発防止策もサプライチェーン全体を視野にした策定が必要だ。
それぞれの不祥事の背景に共通するのはコストだ。制度を悪用してカネをだまし取ったのは、業績への貢献が目的だ。より安い食材を求め産地や賞味期限を偽装したり、メニュー表示と異なって安く買える食材を使ったりしたのは、より安く、より高級感のある食材を使用し、より多くの集客を実現したかったからに違いない。一方で、良質な食材は相応の対価が必要だ。デフレ経済の影響が深刻さを増し、売価アップなど望めない中、実態とは異なる材料表示が行われたのだろう。
部分最適の再発防止策があらたな不正行為を生む
不祥事発生の後、存続できた企業が立案した再建防止策は、おおよそ次の3つのポイントに絞られる。まず、何らかの「組織」を設置する。続いて「ルール」を定める。最後に、決められたルールが従業員に理解されているか、適切に実行されているかを「確認」する。確かに不祥事の再発防止策は、この3点の着実な実行しかない。
問題は、新たに付加された対策が実現できるかどうかだ。実現可能性の検証は、自社のみならずサプライチェーン全体で行う必要がある。2006年に発覚した、マンションの構造計算書を偽造して行われた耐震偽装問題。震度5でも倒壊する可能性があると評価されたマンションが印象的な事件だ。事件発生以降、建築途中の検査の厳格化が図られ、不正に対する厳罰化を目的に建築基準法の改正も行われた。
そして2015年、堅固な地盤に杭が到達していない傾いたマンションが問題になった。発生当時の報道では、発生原因の一つとして、検査態勢に見合っていない膨大な書類作成による過大な負荷が指摘された。発生した不正によって新たなルールを従来の確認方法に加えて設定し、確認内容を増やして信頼の確実性を担保する。業種によっては、新たに必要となった確認行為が自社内で行われずに、サプライチェーンの下流に位置する企業で行われるケースもあるだろう。従来の方法で品質を担保し、正しく確認してきた企業には迷惑な話である。
今、日本ではあらゆる業種で人手不足が問題だ。働き方改革で、長時間の残業に対する世間の目も厳しくなった。そんな中、不正行為を防止するために、闇雲にチェック項目を増やすのは、実行できるかどうかの検証が欠かせない。サプライチェーンの下流に負担をつけ回すような対処は避けるべきだ。人手不足の問題は、サプライチェーンのあらゆる段階で同じように存在する。自社だけの最適化を図っても、社外に責任を押しつけるような対策は、新たな不正の種をまくようなものだ。これは改ざんと偽装の歴史が証明している。
真の再発防止策をサプライチェーン全体で実現せよ
サプライチェーン上で、検査データの改ざんに代表されるような不正行為を撲滅し、かつコスト削減を円滑に進めるためには、まず顧客の要求内容に含まれる基準値の見極めと再設定が必要だ。今回の問題でも、検査データの数値が要求基準に達していない。しかし、製品の安全性には問題ないとコメントする企業が相次いだ。これは、サプライヤーに要求する仕様を、必要以上に厳しくしている証だ。もし、改ざんしたデータでも製品安全に問題ないのであれば、再発防止策として要求内容の改善を行うべきだ。過剰な品質は、すべてコストへとつながっている現実を忘れてはならない。
続いて、検査データへの根拠なき信頼の払拭だ。信頼に足る根拠が必要だ。検査データが提出されたからOKではなく、その内容の真偽を顧客側でも検証する術が必要だ。今回の問題も、顧客がサプライヤーの検査データを検証せずに信頼していたからこそ発生したとも言える。重要な点は、確認行為はサプライチェーンのどこかで一回のみ実施する。そのデータを公開して、複数の企業が確認すれば、より信頼感は増すであろう。こういった取り組みこそ業界で、そしてサプライチェーン全体で、足並みをそろえて実施すべきだ。今回発覚した不正の影響を検証し「問題なし」と発表した企業のトップが、数年後に記者会見で頭を下げる姿は、絶対に見たくない。
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