RIZAP独自の多角化戦略

 通常、企業の多角化は、自社のリソースを新たな事業に活用する形で行われる。RIZAPの場合は、企業のリソース起点ではなく、顧客ニーズの関連性によって多角化が行われている。一見すると、主力のフィットネスジム事業には関係ない事業に対しM&Aを行っているように映るが違う。顧客の「自分への投資」をテーマにしたニーズをとらえ、狙いを定め、綿密な戦略の下でさまざまな企業を買収している。いうなれば、顧客ニーズの連鎖(チェーン)にすべて応えるような事業の整備が買収の目的だ。

 多くの企業を短期間に傘下に収めた結果、自社の商品やサービスを提供するサプライチェーンも企業ごとにバラバラであった。物流統合の準備として、今年いっぱいをめどに、フィットネスジムや英会話、ゴルフ教室や小売り事業で共通の利用者IDを導入する。顧客情報の一元化管理を実現する予定だ。RIZAPが展開するサービスによって、自己研さんに目覚めた顧客が満足したとき、次の新たな課題にも「結果にコミット」を提供し続け、顧客をサポートする仕組みが構築されつつあるのだ。

 今回のRIZAPの取り組みは、顧客に商品を届ける際の物流効率の向上にはとどまらない。グループ企業の展開に合わせ、全体のサプライチェーンを新たに設計し展開する。取り組みを支えるのは、人工知能(AI)の活用だ。サプライチェーンのあらゆるプロセス(コンテナ・物流センター・トラック等)の積載効率を、AI技術を活用して最適化し、物流網全体の効率最大化を目指す。

アマゾンに対抗する

 日本企業では、自動車業界や、電機業界、コンビニエンス業界で先進的なサプライチェーン管理が実践されてきた。今回のRIZAPの取り組みは、異なる商品やサービスを、製造から顧客のラストワンマイルまで含めて一貫輸送を目指す壮大な取り組みだ。

 これまでに同じような取り組みを行っている企業といえばアマゾンだろう。しかしアマゾンでさえ、これまでに自社で製造している商品は、タブレット端末や、スマートスピーカーといった電子機器だ。RIZAPは、自分磨きに必要な商品やサービスをラインアップにそろえて、アマゾンよりも高度で複雑なサプライチェーンの構築に挑もうとしている。

サプライチェーン改革のラストチャンス

 新たな企業の買収を続け「自己投資産業グローバルNo.1」を目指し突き進むRAIZAPにとって、今回のシェアリングサプライチェーン構築は、タイミングとしてラストチャンスだ。すでにグループ企業は63社を数える。買収前の各企業が独自に構築していたサプライチェーンの統合は、大きな困難が立ちはだかる。多角化を進めた大手企業でも難しい課題だ。しかし、このタイミングを逃し問題を先送りすれば、グループ全体として「結果にコミット」できなくなる可能性が高い。

 企業と顧客をつなぐサプライチェーンは、重要な経営資源だ。しかし、国内企業でその重要性に気づき適切な管理を行っている企業は、自動車や電機といった一部の業界にすぎない。複数の商品ラインアップを、同じプラットホームで管理するには、相応の人的資源と資本の投入が欠かせない。今回の経営陣がおこなう取り組みは、サプライチェーンをグループ全体に最適化させる、日本企業では極めて希有な決断によって推し進められると言って良い。サプライチェーン管理でも「変化」を実現させ、より高度な「結果にコミットする」RIZAPの将来から目が離せない。

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