タイミングが悪すぎる集中購買

 続いて、こういった発表では、コストダウンを実現する手段としてよく使用された「集中購買」が「直接材の施策」の「価格のマネジメント」に登場する。集中購買は、消費者の日常的な買い物でも「まとめ買い」によって実現できる安く買う方法論である。しかし現在、企業における調達で「集中購買」による効果の創出はかなり難しい。調達・購買の現場では、バイヤーが集中購買によるコスト削減の獲得よりも、サプライヤーの能力確保に奔走しているはずだ。原因はサプライヤーの供給能力のひっ迫である。集中購買で効果を捻出するためには、事業規模の維持・拡大と共に、集中化によって費用削減を実現できるサプライヤーの存在が欠かせない。この点は、東芝の調達・購買部門の腕の見せ所である。

 しかし、白物家電や医療機器、半導体子会社を売却した東芝にとって、特に直接材の購買は、分散化した影響は否めないだろう。トータルでは1兆9000億の購買額も、直接材と間接材に分かれ、直接材も28の事業に分かれたら、1事業当たりの購買規模のインパクトは減少してしまう。集中購買では「数量をまとめる」と同時に「購入品の種類をまとめる」手法も存在する。購入アイテムに類似性や近似性を見いだせるかどうかがカギになる。数量をまとめる集中購買と比較すると、設計部門に負荷が発生し手間がかかる。そういった取り組みを通じて、事業の分散の悪影響をカバーする必要もあるだろう。

「コストダウン」を使わない調達改革

 最後に、今回の中期経営計画では、サプライヤーにまつわる「コストダウン」の言葉が一切使われていない。調達改革を生み出す効果の源泉に「コストダウン」が使用されていない異例の計画である。多くの企業では、サプライヤーに対し事業の方向性を示す説明会が開催されている。企業の調達・購買にとっては、調達方針や戦略を指し示し、サプライヤーからの協力を取り付けるための重要な場だ。そして多くの企業で「コストダウン」の言葉が連呼される。

 サプライヤーを集めた場で「コストダウン」の連呼は間違いだ。なぜなら、コストダウンは、企業存続に欠かせない当然行うべき活動だからである。この点では、今回東芝が発表した中期経営計画における調達改革の表現は秀逸である。サプライヤーはコストダウンの必要性などわざわざ説明会場に足を運んでまで聞きたくないのだ。サプライヤーの興味は、来週、来月、来期と発注されるのかどうか。来年、再来年も発注が続くのかどうかの一点に尽きる。したがって、サプライヤーを集めた事業説明会は、コストダウンの必要性と同程度、いやコストダウン以上に、事業の維持・拡大に対する根拠ある説明と根拠の提示が必要なのである。しかし、今回の発表では、事業継続の主張も、サプライヤーから協力を引き出す内容には達していないと言わざるを得ない。

事業実態の縮図と映る調達改革

 大手電機メーカーの調達改革には、大きな「柱」と呼べる施策があった。ソニーは、連結営業損益が赤字に転落した2009年3月期決算を受け、サプライヤーを2500社から1200社まで絞り込む計画を発表。パナソニックでは、2011年調達・ロジスティクスの本部機能をシンガポールに移転すると発表した。当時、それぞれの発表はサプライヤーにも社内にも大きなインパクトを生んだ。

 今回の調達改革には、そういった社内とサプライヤーに危機感を醸成し改革の機運を高める「柱」が存在しない。なんといっても発表に費やした211分(約3時間半))のうち、調達改革のスライドの説明は90秒にすぎない。まだスタートラインに並んだだけと言えるだろう。この状況は、現在の東芝の事業構造を如実に表している。事業の柱を手放してしまった今、過去の同業者よりも厳しく思い切った調達改革が必要なのは言うまでもない。サプライヤーと共にスタートを切って、抜本的な調達改革の立案と実行がなければ、650億の効果創出は難しいであろう。