ナイキは米Flexをパートナーとして生産を行っている。同社は2018年に300万ものシューズをナイキに提供するというが、2023年までにはその数が数千万になることを予定している。そのうち25%にあたるシューズは短納期対応が必要であるため、ここでもニアショアリングによる地産地消を強調している。

 もちろん消費者は世界中にいるわけで、北米だけを強化して終わりのはずはない。実際にアジア周辺にも多くの消費者が存在する。ゆえにナイキは、自動化などによるスピードアップは北米に限られるものではないとし、アジアのサプライヤー工場にも1200台ほどの自動設備を導入する予定だ。また他の地域も同様だ。それによって世界中のナイキユーザーを待たせないサプライチェーン構造を構築しようとしている。

 確かにニアシェアリングのほうが、供給がたまゆらに動く商品であれば有利に働くかもしれない。それは過剰生産や海上運送遅延などのリスクを軽減するからだ。

納期短縮は旧来モデルからの脱皮の象徴か

 ところでこの変化について、私は単なる納期短縮だけではなく、広い観点からとらえるべきだと感じている。つまり代理店や販売店モデルから、消費者への直売モデルを強化する際の端境期にあるということだ。

 これまでメーカーは多くの雇用と工場を抱え商品を生産し、そしてそれを全世界の小売店にばら撒いてきた。実際にナイキは566の関係工場で100万人が働き、そして年間13億の商品を生産し、75もの物流倉庫を通じて190の国々の3万もの卸や販売代理店に販売してきた。

 しかし、消費者の嗜好が多様になり、少品種・大量生産ではうまくいかなくなった。いまはマスカスタマイゼーションが指すとおり、消費者一人ひとりに好みの商品を提供しなければならない。

 例えば色やサイズ、細かな仕様、そして足型にいたるまで、商品に求められる個別性は加速している。そこではこれまでの生産スタイル、販売スタイルは時代遅れのものとなりかねない。

自社とサプライヤーの戦略的癒着へ

 いわゆる上記の変化を、ダイレクト・トゥー・コンシューマーモデルという。文字通り、消費者と直接つながる形態だ。これまで販売を卸や販売代理店に託していたところを、積極的に直販に乗り出す。そして、むしろ結託すべきは製造を委託するサプライヤーとなった。

 サプライチェーンをダイレクト・トゥー・コンシューマーモデルから組み換え、消費者が求めるものをすぐさま提供するためにサプライヤーと密接な関係を構築しておく必要がある。

 サプライヤーと蜜月になることで、自社向け工場などの設備投資を促進させる。そして商品開発を素早く進めたり、次世代の開発を共同化したりしなければならない。そしてサプライヤーはさらに生産性向上を目指す。ナイキとFlexはかねてから契約関係を結んでいたが、ここにきてさらに大きなタッグを組むことになった。

 なお、私は全面的にニアショアリングを賞賛しているわけではない。それは商品の特性によるだろう。労働集約型的なもので、かつ、リードタイムに問題がなければ、まだオフショアリングも有効といえる。あくまで、重要なのは答えを一つに定めるのではなく、複数の検討材料をもっておくことだろう。

 しかし、それにしても、ナイキとFlexから学べることはなんだろうか。今後、私たちに求められるのは、もしかすると「戦略的癒着」ともいえる企業連合なのかもしれない。

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