アマゾンの野望
さらにアレクサを使って注目されているのは、料理のサポートだ。もちろん、アレクサに話しかければ、動画などを見せてくれるかもしれない。あるいは、料理の手順を、追って教えてくれるかもしれない。しかし、ここで注目されているのは、アレクサに料理をそのままやらせられないか、という話だ。
なるほど、スマートホームの名のごとく、電子レンジや電子レンジ、オーブンとつながれば、ある程度の調理は可能かもしれない。さらに、アマゾンは、実際に米国で白物家電や、鍋などのプライベートブランドを売り出しているが、その狙いとして、調理サービスをもくろんでいるのは忘れないほうがいいだろう。そこから眺めると、アマゾンの「すべてを奪取しようとする」動きは、やはり凄まじい。
何かを購入するタイミングではなく、生活そのものをアマゾンに取り入れようとしているのだ。どこまでが本気だろう。きっとすべてだ。米国では、すでにアマゾンが提供する「Welcome to your connected home」というページができあがっている。よくSIMカードを利用開始するときは、アクティベイトと呼ぶライセンスを認証するための動作を行うが、このスマートホームを紹介するページでは「Activate your home」とあるのが示唆的だ。なるほど、アマゾンにしてみれば、A→Zの企業ロゴマークよろしく、すべてが自分たちのサービス対象にほかならないようだ。
例えばスマートロック機能では、「eKeys」を家族や友人に渡せば、彼/彼女は、そのスマートホームに入ることができる。さらに、家にはカメラが多数設置され、旅行中にスマホから、すぐさま様子を確認できる(きっとこれを証拠として使ったミステリー映画も出てくるだろう)。もちろん、不審者には警告を与えることも可能だ。
テクノロジーの侵入は悪夢か夢か
さて、アマゾンのアレクサは、あくまで一例にすぎない。アレクサ以外にも、いろいろなデバイスが住宅に入ってくるだろうし、そして、多くの情報がつながっていくだろう。そして、まだ整理されていない課題は多い。
たとえば、スマートロックがクラッキングされて、悪意ある第三者に解錠されたらどうだろう。もちろん、これはスマートロックメーカーが責任をとらねばならないだろう。ただ、家の主によく似た泥棒が侵入し、ロボットが「おかえりなさいませ」と答えたら。あるいは、何も反応しなかったら。また、意図的ではなくとも、住生活の莫大なデータが漏洩してしまったら。そのときには責任の所在もそうだが、どのように補償されるべきなのか。
しかし、これらは来るべきスマート社会に対する、なんの有効な批判にもなりはしない。懸念を述べることは誰でもできる。それよりも、まずは使ってみて、その利便性を確かめるしかない。もっとも、享受したあとは、後戻りできなくなっているのが常なのだが――。
ところで、1960年代に未来学なる学問ができた。文字通り、現状を分析したり、未来を予想したりするものだ。その未来学に対し、私の尊敬する作家の故・高橋和巳さんは、面白いことを述べている。
ひとびとが未来学に興味をもつ理由は、原水爆の存在ゆえとする。60年代からはじまったベトナム戦争で、核兵器が使われる可能性が高まり、ひとびとが得も言えぬ恐怖を感じていた。本来は正しく利用されるために誕生したテクノロジーが、むしろ人類の未来を消してしまう恐怖。その恐怖を前に、逆説的に未来学が必要とされたのだと。
この高橋さんの卓見に出てくる、原水爆をAIに置き換え、人類の未来を消す、を人間の仕事をなくす、にしてみると面白い。AIなどのテクノロジーにある種の恐怖を感じ、ある種の反動が生じるのは、なるほど、もはや昔から変わらないようだ。
それにしても家にAIが張り巡らされるのは、ちょっとまだ気持ち悪い。
今度、アレクサに「気持ち悪いけど、どうかな」と聞いてみようと思う。
たぶん「すみません。ちょっとわかりません」といつもどおり返事をしてくれるだろう。きっと、わからないのは、私の感覚だと思うけれど。
『未来の稼ぎ方 ビジネス年表2019-2038』
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