今回のカルソニックカンセイが提示した方針は、日本における、発注企業が際立って強い徒弟的企業間関係を崩す契機になる。同社の森谷弘史社長の発言に背中を押される経営者も多いはずだ。従来であれば、理由はどうあれサプライヤーの立場で発注企業の操業停止に伴う費用請求は言い出しづらかったはずだ。折しもカルソニックカンセイは、今年の5月に上場を廃止し米ファンドKKR社の完全子会社になった。いわゆる系列から離脱して、独立系として自動車メーカー各社との取引拡大をもくろむ中、従来の企業間関係を引きずった「なれ合い」で収められなかったのだ。

自動車部品メーカーを取り巻く厳しい経営環境

 自動車部品メーカーは今、厳しい立場に置かれている。自動運転車や、電気自動車といった新技術に対応しつつ、新興国メーカーとは競争が激化する中で、コスト削減の取り組みを継続することが必要だ。一方購入側では原材料価格の高止まり傾向よって、コストは上昇。加えて人手不足によって、生産を維持するために従業員の給与水準の見直しも必要だ。近年では、中小企業の給与水準の改善が進んでおり、自動車部品メーカーに納入するサプライヤーも、人件費を含めたコストは上昇傾向にある。

 こういった厳しい経営環境は、どんな企業や業界でも直面している。環境変化は、さまざまな改善や創意工夫で乗り超えるべきハードルだ。しかし、発注企業の不祥事によって、一方的に納入の停止を余儀なくされた場合は話が別だ。手を尽くして集めた人材は、一時的に仕事量が減少しても、削減には踏み切れない。出荷再開と同時にリカバリーが必要であり、厳しい要求に応えるには高い稼働が必要だ。いつ必要なのかは不透明でも、サプライヤーは準備しておく必要がある。カルソニックカンセイは、すぐにも生産再開できる体制を維持しているからこそ、正当な対価を要求しているのだ。

初めて発生した大手企業起因のサプライチェーン断絶

 これまでさまざまな原因で発生した「サプライチェーンの断絶」は、サプライチェーン上の川下に位置する大手メーカーの生産が、川上に位置するサプライヤーの供給停止によって途切れる構図だった。しかし、今回の出荷停止によって発生したサプライチェーンの断絶は、これまでサプライヤーに「どうやってサプライチェーンを止めないのか」と問いただしていた川下企業の不祥事によって引き起こされた。

 自動車業界だけでなく、さまざまな業界でサプライヤーに対しBCP(事業継続計画)を立案させ、サプライチェーンを止めない管理の実践を指導してきた。新たな管理の実践には、相応の費用が発生する。BCPは顧客のためだけではなく、自社の事業継続にも寄与する取り組みだ。カルソニックカンセイも、日産自動車をはじめとした自動車メーカーのサプライチェーンを断絶させない取り組みの要請に応えてきたはずだ。まさか顧客の不祥事によって、自社の生産を止める事態は想定していなかったはずだ。

サプライヤーとの対等な関係構築を目指せ

 今回の「出荷停止」のような、発注企業の一方的な都合をサプライヤーに要求すれば、相応の対価支払いが必要だ。そういった当たり前の話が、日本におけるかつての企業間関係ではできなかった。発注企業とサプライヤーの長期的な「なれ合い」の関係によって、貸し借りを作り、うやむやにして事態を沈静化させ何とか耐え忍んできた。

 これからは違う。日産自動車とカルソニックカンセイのように、発注企業の不手際によってサプライヤーで発生した費用は請求するといった対応をみせる企業は増えるはずだ。そして、これからは徒弟的な上下関係から脱却したフラットな企業間関係が増えてくる。発注企業と対等な立場にサプライヤーが置かれるのである。アウトソースの活用を積極的に進めた大手企業は、対等な立場にあるサプライヤーに伝える言葉を持っているだろうか。今、すぐにでも上意下達を抜きにしたサプライヤーと関係を構築するべきなのだ。