グーグルが日本で発売した「Google Home」
先日、ビックカメラにグーグルの新作を買いに行った。「Google Home」だ。スマートスピーカーと呼ばれるもので、この機器に話しかけるとネットを検索してくれたり、音楽をかけてくれたり、あるいはスマートデバイス対応の家電などを操作してくれたりする。2種類が用意されている。
Miniは文字通り小さく、スピーカー性能も劣る。ただ、やれることは基本的にさほど変わらない。両方とも「OK Google」と話しかければいい。おそらく「おはよう(Good morning)」「こんにちは(Good evening)」と同じ日常語として「OK Google」がくるのだと思う。
個人的には、ちょっとした計算問題をやらせるのが便利だと思えた。また、言葉の意味を検索してくれる(辞書機能)ので効率的だ。もちろんこれらの機能によって、暗算能力が下がり、辞書を引く習慣を消してしまうかもしれないが。
これから日本にも多くのスマートスピーカーが登場し、そのどれが勝つかはわからない。勝ったスピーカーは、家庭内から無数の個人情報を得ることになる。それがグーグルなのかどこかに蓄積されていく。彼らは嗜好情報を得られれば、将来的に商品を推薦できるだろうし、あるいは検索エンジンの精度も向上できるだろう。
世界のスマートスピーカー市場
ところで世界のスマートスピーカー市場はどうだろうか。もちろん先行するのは、米国だ。
結果からいえば、今年に全世界で販売が予想される2400万台のうち、実に約68%がアマゾンのものである。さきに紹介したグーグルのものは20%となっている(Strategy Analyticsの参照ページ)。
この2400万台をどう見るか。もちろんスマートフォンと比べるのはおかしい。ただ固定電話と比較してみるとどうだろうか。日本には約6000万の固定電話加入者数がいるといわれる。そして、固定電話を実際に使っているかどうかは統計のとりようもないが、現在ではかなりの連絡手段は携帯電話によるはずだ。
米国では1億2000万の固定電話加入者数がいる。先ほど紹介した2400万台とは全世界での今年における販売台数だった。それに対し、既存ユーザーがどれだけいるかというと、米国では1カ月に1回はスマートスピーカーを起動したユーザーが3560万人ほどいる。このデータは、使ったことのある人数なので固定電話数と比較するのは、やや乱暴かもしれない。
ただ、固定電話が、古い外部通信装置とし、スマートスピーカーが新たな外部通信装置とする。1億2000万vs3560万だから、4分の1程度までは迫ったことになる。しかも固定電話には150年の歴史があるが、スマートスピーカーにはたった数年の歴史しかない。
固定電話とスマートスピーカー
また、固定電話と比較したのはもう1つの理由がある。それは、アマゾンの開発陣が述べるには、アマゾンのスマートスピーカー「エコー」を使うことによって、これまでのスマートフォンを破壊するのが目的だという。もっといえば、スマートフォンなしでコミュニケーションできるようにするのが、エコーの目標らしい。
エコーにはアレクサという、音声認識のソフトが付与されている。アレクサに話しかけ、通信先の名前を語れば、アレクサがテレビ電話などでつないでくれる。我々は、スマートフォンを手に取って電話をする必要がなくなる。そしてアレクサは、他のデバイスに比べて圧倒的に多くの多言語対応力をもつ。
また面白いと思ったのは、スマートフォンを持っていない子どもたちにも、世界とつながる機会を与えることだ。なるほど、諸外国でもスマートフォンが人気、といっても、未就学児童や低学年児童はスマートフォンを持っていない。しかし、家庭内に設置されたアレクサに話しかければ、遠く離れた祖父母にもコンタクトできる。
彼らにコミュニケーションの手段を与え、そしてアレクサと友だちになっていく。
アマゾンスマートスピーカーの広がり
アマゾンはこのアレクサを自社で独占しているわけではない。ライセンスを供与し、他のメーカーにも生産を認めている。例えば、Sonosの例がある。これは、アレクサを搭載したスピーカーだ。
またアマゾンは先日、独BMWともパートナーシップを発表した。これはアレクサを仮想アシスタントとしての活用を狙ったものだ。アマゾンは先日、米フォード・モーターとも連携を発表したばかりで、ドライバーはデート中、運転をしながらレストランを探せたり、予約できたりする。このアシスタントがアレクサというわけだ。そのとき、ドライバーは駆動するために「アレクサ」と呼びかけなければならない。これは冒頭で紹介した「OK Google」と同じく、新たな挨拶語になるのだろうか。
さらにアマゾンは、このアレクサがマイクロソフトのパートナーとなることも発表された。マイクロソフトは、Cortanaという仮想個人アシスタントを有しているが、その二者間で相互補完する。つまりアレクサユーザーも、アレクサを通じてマイクロソフトの電子メールを確認できるし、カレンダーも調べられる。さらにCortanaからもアレクサの力を借りて買い物ができるのだ。
アマゾンのアレクサは、韓国LG電子の冷蔵庫とも連携することが決まった。冷蔵庫がネットワークにつながることによって、レシピの提供ができる。また、冷蔵庫内部にカメラを設置することでスーパーマーケットにいるときにも過不足ない買い物ができる。将来的には、食品の自動補充や、買い物リストとの自動連携なども視野に入っているだろう。
スマートスピーカーの将来性
これからスマートスピーカー市場は、多くの挑戦者を待つことになる。アップル、サムスン、LINEは当然として、無数のサードパーティーがやってくるはずだ。
しかし面白いのは、これが単にアシスタントではなく、これまでデータ化されていなかった個人活動のデータベース化を進める主体となることである。なんだかんだいって、個人が親交を深めるには会話を重ねる過程の果にある。とすれば、アマゾンの分身であるアレクサが、個々の家庭に入り込み、会話を重ねると、これまで全く想像もしなかったレベルで深い情報が手に入るかもしれない。
どこまで信憑性があるのかわからないものの、現在、アレクサはスピーカーから自動車にいたるまで、なんと7000以上の商品やサービスに組み込まれる予定だという。
そのデータは機械学習とAI(人工知能)によって、さらに同社のサービス改善に寄与するだろう。きっと、アレクサは、ジョージ・オーウェルの小説「1984」でいうところの、ビッグ・ブラザーと同じ意味になるに違いない。
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