トレーサビリティーが限定的である理由

 鉄道事業者以外に、航空機や自動車メーカー、電力会社からも対象部品を調査した結果が発表された。こういった発表は、使用している原料や素材に関する追跡可能なデータが、発表した各社とサプライヤーに残されていて初めて実現する。航空機や鉄道、自動車や原子力発電所に納入する製品は、サプライチェーン全体で構成部品や素材、材料まで網羅した追跡可能な管理を行っている。こういった管理手法は、品質を確保しつつ、なにか問題があったとき、対象となる製品を速やかに明らかにし、事態の収束をスピーディーに行い安全確保することが目的だ。今回のケースでは、トレーサビリティー管理によって、神戸製鋼所からの発表の後、すぐに対象部品の特定が行われたと想像できる。

 しかし問題の本質は、神戸製鋼所が納入した原料や素材のすべてが関係するサプライチェーン全体にはトレーサビリティーが確保されていない点にある。原材料から素材を使用し、生産した製品までを追跡可能にするトレーサビリティー管理は、サプライチェーン全般にわたって多額の費用が発生する。したがって、製品の不適合が人命に影響するような製品や、確実な稼働が求められる製品にしか行われないのである。

 鉄道や航空・宇宙、自動車といった製品以外で、多くの日本企業がグローバルに顧客を抱える資本財に該当する製品は、トレーサビリティー管理は行われていないケースが多いはずだ。神戸製鋼所から素材は購入した実績はあるけれども、どんな製品を製作し、どの顧客に販売したかを判断する確証はありません、といった実態に、これからどのように対処するのか。もし、該当する素材かどうかを調査したり、再製作や交換したりする場合、費用は誰が負担するのか。今後の事態の展開によっては、さらに広範囲に影響を及ぼす可能性を秘めている。

神戸製鋼所にのしかかる費用負担問題

 顧客の立場としては、神戸製鋼所による一方的な契約違反であり、倫理的にも受け入れられる問題ではない。部品として製品に組み込まれ、さまざまなビジネスの現場で稼働し、例えば移動手段を担うインフラとして使用されていれば、最終的には正規品に交換するといった作業が必要だ。そういった対応に費用が発生したらどうなるか。発生した費用によって、企業損益にマイナスの影響が出れば、それは誰が負担すべきなのかといった原理原則論が登場する。

 現時点では、まだ事実関係のすべてが明らかになってはいないだろう。神戸製鋼所の説明も、今後も新たな事実が発覚する可能性に含みをもたせている。しかし、問題のある素材を使用している企業には、製品の改修によって発生する費用負担を神戸製鋼所に求めると明言した企業がある。そして川崎社長も10月13日に行った記者会見の席上で、そういった要求に対応する「腹積もりがある」と明言している。具体的な発生費用の総額が不確定な段階のこういった発言に、今回の事態の深刻さが読める。