豊洲が背負わされたハンデ

 外国人だけではなく、日本人も「築地」といえば、水産品に代表される食品を想像する。この消費者のも持つ「イメージ」こそ重要であり、市場移転でもっとも配慮すべき点であった。

 一方、移転先の「豊洲」の名前から日本人は何を想像するだろうか。現在はあか抜けした高層マンションが建ち並び、大規模なショッピングセンターや学校も整備されている。都心からの距離も近く、再開発が進んで魅力が高まった注目の街だ。しかし1980年代後半までは工業地域だった。「豊洲」の名前がもつ街のイメージは、工業地域から良好な住環境をもった地域へと変貌するまさに過渡期にある。

 築地市場の豊洲への移転計画が進む中で発覚した土壌汚染の問題は、計画推進には大きな障害となったはずだ。しかし、その障害を乗りこえて土壌汚染対策を実行しなければならなかったのだ。市場で取り扱われる食品の安全への不安除去が、新たな「豊洲」ブランド構築の礎となったはずである。長年培われた歴史によって、ただでさえ「築地」がもつイメージを、そのまま「豊洲」が引き継ぐのは難しい。これまでに発生した問題によって、豊洲市場は開業前から大きなハンデを背負わされてしまったのだ。

 食品にとってもっとも重要な安全性の確保が問題だ。ガス工場の跡地に建設された新市場が現在の姿で、果たして安全な食品の流通拠点として機能できるのかどうか。この点は、現在進行形である検証によって、安全性の確保を確実に行わなければならない。「東京都中央卸売市場」のホームページには、日本の高い物流技術を活用した商品の温度管理(コールドチェーン)や、物流の中心を担う自動車の駐車スペースの確保、商品取り引きプロセスを踏まえた、効率的な市場の実現が示されている。こういった点は、築地市場のもつ機能を引き継ぎ、豊洲市場ではより高度なサプライチェーン機能を実現する点であり、期待できる内容である。こういった築地よりも豊洲が秀でている点を生かし、効率的なサプライチェーンで安全・安価な商品流通を実現するためにも、懸念の払拭は待ったなしだ。

深刻に憂慮すべき「いまさら感」

 豊洲市場のハード的な要素である土壌汚染への対応がネックとなり、現時点でいつ移転できるのかが決まっていない。現状が極めて深刻なのは、食品の流通を担う用途に応じた建物が建てられているかどうかが、現時点でわからない、説明ができない点にある。この規模の建築工事であれば、建築会社と発注者である東京都によって、工事の各プロセスで詳細なチェックが厳格に行われていたはずだ。これまで実施した記録を、淡々と説明すれば良いはずだ。盛り土をしていたかどうかその是非ではなく、有害物質に汚染された土の上に建設された建物で、取り扱われる食品がどんな影響を受けるのかが重要である。世界でもっとも海産物の取扱高の大きな市場かつ、多くの外国人が観光に押し寄せるほど魅力ある食品市場なのだ。完成後になって安全性が問われるのは憂慮すべき事態である。

 築地市場のもつブランド力は、世界の消費者に訴求できる貴重な財産である。移転計画にたずさわった関係者に、築地のもつ価値に関する正しい理解があっただろうか。築地の価値を支える、食品を取り扱う際に必要となる安全性の確保への認識は正しいものだったか。

 築地市場を含めて構成されるサプライチェーンは、築地というブランドを築くうえで確固たるものがあった。サプライチェーンは商品だけでなく、ブランドによる満足感や信頼・安心を消費者に届ける機能を有している意識が必要だ。サプライチェーンは構成要素のただ1つに問題があっても機能せず、効率性が損なわれる。築地市場の移転問題で、現在進行形で明らかになってゆく事実が、盛り土や地下空間の是非や、過去へさかのぼった関係者への処分だけに終わるのか。それとも、日本で数少ない世界ブランドである「築地」のもつブランド力の維持・拡大に繋がる取り組みへと発展させられるのか。食品サプライチェーンではもっとも重要な「食の安全性確保」につながる改善へとつなげてほしいと願っている。