先週の当連載『下請け企業は3つの「何」から脱却せよ』で、「未来志向型の取引慣行に向けて」の発表についてふれた。これは、経済産業省が発表したもので、企業間取引に関わる提言書だった。特に注目をひいたのは、「適正取引」を強調した点だ。具体的には、輸送機器関連企業(自動車関連企業)に対して、下請事業者と取引をする際に、「価格決定方法の適正化」「コスト負担の適正化」「支払条件の改善」を求めた。
これまでも、下請代金支払遅延等防止法や、下請中小企業振興法における振興基準などは存在しており、今回の発表ではそれらを厳格に運用しようとしている。本連載は2人の筆者で執筆しているが、今回は私がその背景と実情を分析してみたい。
現場の空気
同発表をうけて数社の輸送機器関連企業にヒアリングしてみた。今回、まさに注目されるのは、調達部門だ。基本的に調達部門が企業の価格決定や支払条件の決定までを行う。
ヒアリングした結果、思うよりも現場は冷静だった。というのも、経済産業省から依頼されるまでもなく、コンプライアンスの観点から取り引きの公正化に努めてきた自負があるのだろう。下請事業者の見積書をもとに価格交渉をするとき、(以前は知らないが)根拠なく価格引き下げを依頼する光景はもはや見られない。
たとえば、材料費・加工費・金型費などに原価を分離してもらい、それを仔細に査定していく。その一つひとつについて、厳しすぎたり、甘すぎたりすることはある。ただ、適当に「いくらくらい」と決めることは考えられない。
ところで個人的な経験から話すと、私もかつては自動車メーカーで調達業務に従業していた。そのときに、価格決定をないがしろにし、机を叩くような交渉をしている人間はいなかった。私は同業他社にも多数の知人がいるが、同様だ。
また、支払条件の改善にしても、月末締めの翌月末払い(あるいは翌月中旬払い)が主流であり、これ以上の改善はなかなか難しい。
下請事業者を苦しめているもの
しかし、これまでの記述は、「だから下請事業者が苦しいはずはない」と結論付けるものではない。下請事業者が苦しいかというと、苦しい。実際に倒産する企業がある。私がいいたいのは、現場の調達部門と下請業者の接点に問題があるのではなく、他のポイントに問題があるということだ。
これを見てほしい。これは全世界の自動車メーカーの完成車生産台数だ。

リーマンショックの落ち込みはあるとはいえ、右肩上がりで推移している。つまり、グローバルに目を向けるなら、業界は比較的堅調だと思って良い。
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