私が大学を卒業して入社したメーカーでのこと。新入社員の私を驚かせたのは、納入業者が、オフィスの、さらに机のあるところにまで入ってきて、商談をしていたことだ。正確には、しばらくすると、それが当たり前になって驚かなくなった。

 納入業者と自社の境界は曖昧だった。商談のあと納入業者は、タイミングを見計らって、部長に挨拶しては帰っていく。いま思えば、重要書類も机上にあったはずだが、それを気にするひとはいなかった。納入業者がそれを見ても、どうってことない、という意識もあったのだろう。

 しかし、その牧歌的な時代も、急速に変化していった。いまでは、そもそも入館するのに厳重なチェックが重ねられる。もちろん、商談スペースと、オフィスは別になっている。機密書類の取り扱いや、送付条件なども厳しく設定されている。

 いまでは、取引先がオフィス内に“侵入”したことなど、思い出話としてしか聞かない。また、分離が当然の感覚でいると、昔のように取引先との境界が曖昧だった時代こそ、とても危険に思えてくる。

 ただし、それが違う形だったらどうか。

ウォルマートの家庭内侵入サービス

 ウォルマートが面白いサービス構想を発表した。スマートロックを使った、冷蔵庫への直接配送(“Delivery Straight Into Your Fridge”)だ。文字通りのサービスだが、けっこう衝撃的なので一度ご覧いただきたい。

 キャリアウーマンが自宅で冷蔵庫を開ける。食材が不足している。しかし、残念なことにスーパーマーケットに行く時間もないし、配送を受け取る時間帯に帰宅できない。彼女は職場に向かう前にウォルマートに食材を注文する。すると、ウォルマートの配達人の男性は、彼女の自宅に到着すると、カギを開けて(!)“合法的”に侵入し、冷蔵庫を開けて食材を入れて、そのまま立ち去る。

 そのとき彼女はオフィスにいる。スマートフォンに通知が届き、ウォルマートの配達人がやってきたことを知る。さらに自宅に設置したカメラが、配達人の様子をリアルタイムで中継する。女性の一人暮らし宅に侵入したのは男性とはいえ、もちろん危険なことはしない。配達人の行動の一部始終を確認し終わると、彼女はスマホを閉じ仕事に戻る。

 あくまでも私が確認した時点(2017年9月24日)ではあるが、goodボタンとbadボタンは残念ながら、badが多いようだ。

Delivとスマートロックと

 ウォルマートの同サービスは、米Delivとの連携を想定している。Delivとは、配送サービスを提供する会社だ。ただ、いわゆる日本でいうヤマトや佐川急便を想像すると、ちょっと違う。配送サービスのマッチング業者といったほうがよく、ウーバーの配送サービス版と思ったほうが近い。荷物を送りたい側と、トラックなどの運送手段を持っていながら稼働時間に余裕がある業者を結びつけるのだ。