今、東京は「ずさん」の嵐が吹き荒れている。豊洲市場の盛り土工事や、2020年東京オリンピックのメインスタジアムである新国立競技場の建築費が、「ずさん」の真っ只中にある。「ずさん」とは「手抜き」を意味する。
後者の新国立競技場の問題は、「ずさん」な見積もりが引き起こしたともいえる。企業の事業活動において、ビジネスパーソンはあらゆる場面で見積もりを取得する機会があるだろう。調達・購買業務に携わっているのであればなおさらだ。では、「ずさん」と称される見積もりから自社を、そして自分自身を守る手段はあるのだろうか。新国立競技場の問題から、何を学べば良いのかを考えてみる。
根拠がなくても妥当性のある数字は必要
新国立競技場の建設費用の総額は、まさに大きく上下している。2014年4月に発表された「2020年 オリンピック・パラリンピック競技大会 招致活動報告書」では、開催都市立候補に必要な申請ファイルの中に「オリンピックスタジアムの概要」として、申請ファイル作成時と注記がありながら建築費用は1000億円と記載されている(2012年2月)。まず、この1000億円の根拠だが、申請ファイル作成時には、新しいスタジアムの計画は白紙状態。金額算定の根拠が全くない状態だった。
国内で同規模のスタジアムといえば、2002年日韓共催サッカーワールドカップで決勝戦が行われた日産スタジアム(横浜国際総合競技場)があり、その建築費用は603億円といわれている。この時点の1000億円は、見積積算の根拠がないから「だいたいこれくらいあれば、立派なスタジアムができるだろう」程度と類推する。
結論として、この1000億円に確固とした根拠はない。この時点は、オリンピックを開催するかどうかもわからない段階であり、ずさんと指摘するにはあまりにも早計だ。当時からさかのぼって20年前に、同じ首都圏で建設された日産スタジアムの建設費用を参考に、1.5倍ぐらいであれば収まるだろうと判断したのは容易に想像できる。
オリンピック招致委員会のメンバーには、スタジアムに代表される建築物の専門家も含まれていたはずだ。しかし、まだ詳細どころか概略計画もない中で、建築に要する費用の見積もりを行うのは不可能だ。この段階で「申請ファイル作成時」との注記をもって1000億円と推計した数値を算出したのは極めて妥当だ。そして将来予見されるさまざまな変動要因への対処方法を、算出した金額とともに明示すれば良いのである。
デザインと予算のミスコミュニケーション
東京への招致が決定する約10カ月前の2012年11月、新国立競技場基本構想のコンクールで、英国の設計会社の作品が最優秀賞に選出された。今となっては幻となった流線形のデザインである。翌2013年度予算案に、改築準備費として約21億円が計上され、総工費約1300億円と発表された。当初の1000億円対比では30%アップ。デザインが決定して初めて示された建築費であり、新国立競技場建築費用は、実質的に初めて算出された金額だ。
そして同時に混乱が始まる。実は1300億円は、国立競技場の運営主体である日本スポーツ振興センターの予算だったと判明する。約9カ月の後の10月になって、実は建築には3000億円が必要であることがわかった。それも、この事実がデザイン採用後に判明したと発表されたのだ。計画自体は規模を縮小した新デザインで公表され、想定される建築費も1625億円まで減額された。しかし、規模を縮小した案でもゼネコンが見積もりをした結果、3000億円を超える数値が提示され、問題はどんどん大きくなった。
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