しかし、米国では反差別は、もはや議論の前提である。それに対し、トランプ大統領は事件について問われた際に、「双方に責任がある」とした。平等といえば平等だが、差別主義者を「擁護」した。

ウォルマートの意図

 もちろん、ウォルマートがあえてトランプ大統領が糾弾されているタイミングに合わせたとまでは思えない。実際に、ウォルマートは「私たちの店舗には1週間で1億4000万人のお客様が訪れる。そのため、店舗は米国のコミュニティーの一部である(We're a place where 140 million people gather every week, and our stores are part of the fabric of communities around America.)」とし、反差別推進という当たり前のメッセージを発したのであって、タイミングに意図はないとしている。

 ただし、小売企業のトップはトランプ大統領と距離を広げはじめている。大統領の近くにいることで、自社に思想的な色をつけられることを危惧してのことだ。もちろん、売り上げに影響を及ぼすと懸念している。なによりトランプ政権下で政治的な活動にかかわるのが、あまりにリスクが高いと判断したからだ。メディアだけを見ていると、トランプ反対派ばかりだと感じるが実際には、店舗に来る何割かがトランプ大統領支持なのだから。

 その意味で、ウォルマートのCMは意図的ではないにしろ、象徴的ではあるとはいえる。また企業は時代がめぐって、差別を考えるときがやってきたのだろう。冒頭の私のエピソードでいえば、差別が撤廃され、小売業が問題と感じていなければ、あえてそういうCMを流す必要はない。

米国の消費者が求めているもの

 それにしても、私はこれまで勝手に米国を先進的だとイメージしていた。なのに、ここにきて米国の退行は、残念なものがある。

 いや、それでもこれまで私が個人的に出会ったエリート層の米国人は、原理原則が好きで、理想的で、なによりも明るく、未来を変えようとする意思を持っている。もちろんこれはエリート層だからだろう、という批判があるかもしれない。しかし、米国消費者は先鋭的だ(いわゆる意識が高い系だ)。たとえば、他国に比べて、社会的なコミットが高い。ビジネスを通じて、社会をよりよく変革せねばならない、と答えている。さらに、社会的な問題について、企業は積極的にアクションをとらねばならない、とも答えている。

 大手製薬会社のメルク・アンド・カンパニーの会長兼CEOであるケネス・フレイザー氏が語っているコメントが象徴的だ。「私は社会の不寛容さと、そして過激主義に立ち向かわねばならないと感じている(I feel a responsibility to take a stand against intolerance and extremism)」。