
7月上旬に内部告発で明るみに出たヤマトホームコンビニエンスによる引越代金の過大請求問題。先週第三者委員会による調査結果が公表された。第三者委員会は、過大請求を行ったヤマトホームコンビニエンスだけではなく、監督責任のあるヤマトホールディングス(HD)の経営体質の問題を指摘した。
2種類の「お客さま」が過大請求を助長した
今回の問題は、ヤマトホームコンビニエンスが請け負った引っ越しの法人契約で発生した。ヤマトホールディングス調査委員会が発表した「調査報告書」19ページの「法人契約引っ越しサービスの流れ」に記載されている契約から受注、見積もり、搬出作業、搬入作業、請求へと至るフローを見れば、今回の過大請求の発生理由が極めて明確に理解できる。ポイントは2種類の「お客さま」である。
まず、引っ越しする業者を選定するのは「お客さま(法人)」である。法人が依頼する引っ越し需要の発生は、社命による転勤が想像しやすい。実際に国内における引っ越し需要は、新年度に合わせた3~4月で全体の3割にもおよぶ。会社都合だから、従業員やその家族の移動にともなう費用は会社が負担する。したがって、実際に引っ越しをしなければならない「お客さま(本人)」は、引っ越し業務の発注先を決定した担当者とは、異なるケースが多いはずだ。今回の過大請求は、発注決定者と発注したサービスの受益者が異なっているために発生したのである。
2種類の「お客さま」に必要なコミュニケーション
引っ越し業者の選定者と、引っ越しサービスの受益者のように、発注先を決定する人と、発注したモノやサービスを受け取る人が異なるのは、企業における外部業者活用では一般的である。むしろ、恣意的な発注業者選定を防ぐためには好ましい状態である。しかし、好ましい状態を機能させ維持するためには、選定した業者が見積もり金額に見合ったサービスを提供しているかどうかの確認と、選定者、受益者の適切なコミュニケーションが欠かせない。これがサプライチェーンの各所で確実に実現しなければ、サプライチェーン全体でのQCD(Quality、Cost、Delivery)すべてにおける健全性が確保されない。今回のケースで言えば、引っ越し業者を選定し見積もりを入手した担当者が、見積もり内容通りの作業が行われたかどうかを確認しなければ、今回のような「過大請求」が発生する可能性が高くなるのである。
本来的には、サービスが適切に行われたかどうかの確認がなければ支払いができないはずだ。しかし、サービスの受益者が無事に引っ越し先に家財道具を移動させ、新たな住居への移転完了によって、赴任地へ出勤すれば、サービスが提供されたと判断していたのであろう。引っ越しサービスの受益者も、作業の完了時点で、作業完了のサインを行っているはずだ。しかし、実態として実際に運送した内容と、事前見積もり内容等の違いを詳細にはチェックしていなかった可能性が高い。
過大請求の根拠になった「標準引越運送約款」
もう一つ、今回の問題が「過大請求」とされる根拠がある。国土交通省によって示されている「標準引越運送約款」である。第十九条には「運賃等の収受」が規定されている。その中の4項には「実際に要する運賃等の合計額が見積書に記載した運賃等(以下「見積運賃等」。という)の合計額より少ない場合 実際に要する運賃等の合計額及びその内容に修正します。(4項一号)」と明記されている。この規定によって、見積もり時点よりも実際に荷物が少なかった場合、運送内容に合わせて見積もり金額を修正して請求しなければならないのである。見積もり内容と、実際の作業内容の対比が必要なのである。
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