2016年リオ五輪閉会式。五輪旗を受けとる小池都知事(写真:ロイター/アフロ)

 8月21日、リオデジャネイロオリンピックが閉幕した。日本選手団は史上最多となる41個のメダルを獲得した。オリンピックの閉会式では、次の開催都市東京の小池百合子知事に五輪旗が手渡され、マリオにふんした安倍晋三首相まで登場し、次の開催地としての「TOKYO」のアピールに成功した。

 東京では既に会場や選手村といったハードの整備が進められている。開催都市、開催国で暮らす我々は、これから4年後のオリンピック開催へ向けてどんな準備をすれば良いのだろうか。それはオリンピック開催地決定から開催に至るプロセスに隠されている。

ロンドンオリンピックはどうだったか

 ここでは興奮冷めやらぬリオデジャネイロオリンピックではなく、2012年のロンドンオリンピックを振り返る。ロンドンオリンピックは、2008年の北京や今回のリオデジャネイロとは大きく異なる点がある。それは、新興国発展の象徴として開催される「国威発揚型」のオリンピックではなかったということだ。

 北京やリオデジャネイロは、国威発揚型のオリンピックだ。そして前回1964年に開催された東京オリンピックも同じだ。しかし、前回のオリンピックから56年が経過した2020年に東京で開催されるオリンピックは、前回とは違った意味が必要となる。そこであるべき姿を考えるために、2012年ロンドンオリンピックは、どのような考え方で運営されたかについて、理解しなければならないのだ。

 2012年のロンドン大会は、開催地の立候補の段階から、国威発揚型のオリンピックとして位置付けられていなかった。国の発展を示すのではなく、サステナビリティ(持続可能性)をコンセプトの中心に据えてオリンピック開催環境の整備が進められたのだ。

 これまで、オリンピックやサッカーのワールドカップに代表される大規模なイベントでは、開催国の社会にひずみを生み、開催後には不況に見舞われ、環境面へ悪影響を及ぼすとされていた。しかし、ロンドンオリンピックでは、そういった側面を否定し、オリンピックの歴史で初めて「持続可能なオリンピック」を検討した。その結果、2007年に英国規格協会によってBS8901「サステナビリティイベントマネジメント規格」が生まれ、2012年の6月には国際規格へ進化したISO20121「イベントの持続可能性に関するマネジメントシステム」が登場した。ロンドンオリンピックは、初めてISO20121にもとづいて開催されたオリンピックなのだ。

 ロンドンオリンピックの精神は今回のリオデジャネイロオリンピックにも引き継がれ運営されている。このため、世界的なイベントであるオリンピックの成功のために、次回開催国の日本は、企業も国民もまずISO20121の内容を理解しなければ正しい準備はできない。

 ISO20121の中で調達・購買/サプライチェーンの関係者が注目すべき点は、サプライチェーンマネジメントにおいて、持続可能な調達とその必要性が定義されている点だ(ISO20121:2012 付属書B2)。規定によると、発注側だけではなくサプライヤーの関与を求めている。確かにロンドンやリオデジャネイロで開催されたオリンピックに日本企業や日本人が関わる場合は、競技への参加や観戦が主だった参加だった。

 しかし開催国の場合、開催準備や運営を含めたオリンピック開催に必要となるさまざまなリソースを提供する日本国内のサプライヤーも開催運営に関与するはずだ。この規格のサプライチェーンにおける4つの「主要な目的」は以下のようになっている。

(1)悪影響の最少化

 企業の事業活動によって生じる持続性へのマイナス影響を最少化する。具体的には、健康への悪影響や大気汚染や有害廃棄物に代表される公害問題、アルコールやドラッグの社会的な影響が示されている。これは、現在各企業で取り組んでいるISO14000(環境マネジメントシステムに関する国際規格)における取り組みや、CSR(企業の社会的責任)への取り組みによって実現を目指しているはずだ。省エネルギーや地球環境への影響の少ない機器は、世界の最先端を行く日本の技術力を、広く示す格好の場になるだろう。

(2)資源需要の最少化

 使用する燃料効率の良い自動車や、使用後に再生可能な原材料や製品の使用によって、オリンピック開催に使用する資源そのものを最少化させる取り組み。この点は、日本企業の調達・購買/サプライチェーンの重要な責任であるコスト削減に直結する話であり、闇雲に資源を浪費する企業はいないだろう。2004年にノーベル平和賞を受賞したケニアのワンガリ・マータイさんが使った「もったいない」の言葉に宿る精神を、企業のみならず国民の一人ひとりが再確認し日常生活で実践する姿を、東京オリンピックの開催準備でも示さなければならない。

(3)サプライチェーン自体がもつ悪影響の最少化

 この内容は少し難しい。調達活動における倫理的な側面だ。小規模なサプライヤーを優先し、人権・雇用条件といった最低限の倫理の確立を、調達活動を通じて実践しなければならない。実務面では、まず発注側の要求が実現できるサプライヤーかどうかが先にあって、その先に正しく労働者を雇用しているかどうかが問われる。コンプライアンスが実践されているかどうか、また今の日本の実状に照らし合わせてもオリンピック開催国の企業として、もっとも重要視すべポイントだ。

(4)公正な契約条件の適用

 この点は「公正とはなにか」を明確にしなければ、適合するかどうかを判断できないだろう。公正とは明白さが担保されなければならない。企業の取り組みでは、金融商品取引法に規定された内部統制報告書の作成過程で担保される内容になる。

 ISO20121に規定される内容を、その「目的」から判断すると、多くの内容は既に他のISOやCSRによって取り組まれている。イベントの開催は、多くの企業の協業があって初めて成り立つ。個々の企業で行われている内容を、イベント全体に網羅的に規定するのがISO20121といえる。これから本格化する準備や、オリンピック開催期間中、そしてオリンピックが閉幕した後に問われるのは、各企業における4つの目的に関連した内容が、正しく実効性を持って「持続的に」行われているかだ。

慌てずに実状を確認する

 ISO20121には、ISO14000やISO26000(社会的責任の手引)から引用されている内容が多くある。したがって、東京オリンピックの準備や運営に携わる企業は、まず環境マネジメントや、社会的責任への取り組みが、社内でどのように行われているのか、取り組みが実効性を伴っているのかを確認する必要がある。加えて、従業員と関連するサプライヤーも、同じ考え方に沿って行動しているかどうかが重要だ。サプライチェーンの視点では、社内の調達・購買プロセスに関連するすべての部門が総合的に取り組まなければならない。

 先に述べた4つのテーマで、日本企業にとってリスクが高いテーマは「(3)サプライチェーン自体がもつ悪影響の最少化」だ。多くの企業は、サプライヤーを含め労働条件が既に法整備によって整っていると考えているだろう。まして倫理的に問題となるような労働条件は、自社あるいはサプライヤーでは存在しないと考えているはずだ。

 問題はそういった思いこみによって、実態の確認すら行われない場合に発生する。もし、問題がないのであれば、なぜブラックと称される企業がマスコミを騒がせるのか。過去1年間を振り返っても、偽装や隠蔽といった問題がマスコミをにぎわしている。2020年のオリンピックを成功させ、選手の活躍を支えるためにも、開催国として持続可能性を追求した姿を、企業として国民の一人ひとりとして示さなければならないのだ。