米アマゾン・ドット・コムはIT(情報技術)端末の「アマゾン・エコー」をさらに進化させている。アマゾン・エコーは、アレクサという音声認識ソフトを搭載した筒状のデバイスだ。たとえばエコーに声をかければ、スマートデバイスの操作をしてくれたり音楽をかけてくれたり、ネット経由で買物をしてくれたりする。
それをディスプレイつきにしたのが、「アマゾン・エコー・ショー」だ。いちどご覧いただければわかる。生まれたばかりの双子を持つ夫婦。旦那が家事の途中、エコー・ショーに電話がかかってくる。母親からだ。「アレクサ、電話を受け取ってくれ」と話すと、テレビ電話がはじまる。母親は、孫となる双子と、そのエコー・ショーを通じて対面する。
夫婦が育児に疲れて眠りにつくと、子どもたちは夜泣きをはじめたようだ。米国では、夫婦の寝室と子どもの寝床は異なる。妻はアレクサに声をかける。「子どもたちの様子を見せて」。すると、アレクサは、子どもの寝床に設置されたカメラでその様子を映し出す。
子どもたちは泣くのを止めない。寝室から移動した夫婦は一人ずつ子どもをあやすと、夫がいいアイデアを思いつく。音楽をかけてリラックスさせればいい。夫は、アレクサにアマゾンミュージックのなかから曲を選定するように指示する。ロックが流れ始めると、その双子はすぐさま眠りについてしまう……。
また、別の場面で。孫娘が絵を書いていると、祖父がやってくる。祖父は宇宙の描き方を教えるために、エコー・ショーに話しかける。「アレクサ、YouTubeを開いてくれないか」。そして、孫娘と共作した絵画が完成すると、孫娘はそれを祖母に自慢しようとする。もちろんアレクサに話しかける。なにより孫娘の成長に喜ぶ祖母は感激のなかでむせぶようになる。
エコー・ショーという新メディア
アメリカ人らしい、喜劇ともいえる宣伝ではある。エコー・ショーが生活のあらゆるところに瀰漫していく様子を描いた動画は、奇妙というか、むしろ怖くもある。ただ、可能性を感じさせるのも事実だ。
そして面白いのは、このエコー・ショーをハブとして、さまざまな周辺ビジネスが勃興することだ。たとえば、同機器がアメリカじゅうの家庭に設置されたらどうだろう。このエコー・ショーは、最大の話し相手になるかもしれない。「今日の天気は?」と聞くだけならどこかの気象サイト情報を引用すればいいが、「アレクサ、今日はどんなニュースがある」と聞かれたら、どうだろうか。
もしかすると、日本だったら「そうですねえ。本日のヤフートップニュースは…」とか「日経ビジネスオンラインだったら、炎上記事が今日も1位です」などとコミカルに教えてくれるかもしれない。しかし、エコー・ショー向けにニュース番組をつくれば、それは、TVに依存しないマスメディアになるかもしれない。実際にCBSの関係会社であるKIROは、エコー・ショー向けにニュース番組を提供する。スマートデバイスはスキマ時間を使って利用するものだが、このニュース番組も、手短なもので1分半から2分程度のもので、しかし1日に4回は更新される。以前、日本では「ヤフーのトップニュースだけ確認している」といった人がいたが、米国では「アレクサから教えてもらうニュースだけを確認している」という人が出現するだろう。
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