私はサプライチェーン、特に調達・購買関連のコンサルティングに従業している。このところ、再び増えてきたのは、サプライチェーンにおけるリスクマネジメントについての相談だ。
熊本地震から一段落したからだろうか。あらためて、自社の調達網について再考する企業が増えているようだ。では熊本地震ではサプライチェーンが進化していなかったかというと、そうではない。サプライヤーがマップとして整備されたり、あるいは震災後の復旧が早かったりした事実からは、確かに各社の努力が伺われる。震災が起きるたびに、サプライチェーンは遅々としながらも進化してきた。
しかし、問題が残ったのも事実だ。結局、あまりサプライヤーの二重化は進んでいなかった。これはマルチソース化とも呼ばれる2社購買のことで、材料や部品を単独企業からではなく、複数企業から調達することでリスクをヘッジするやり方だ。熊本地震では、このマルチソース化が進んでいないことをはからずも露呈した。なお、このマルチソース化について、世間には多くの誤解があると私は思う。そのため、詳しくは別途連載記事に書いておいた。
必ずしもマルチソース化が正解ではない。そのほか、サプライヤーの工場を二重化してもらい、一方の工場が被災した際には、代替工場で生産してもらう、マルチファブ化もある。また、標準部品の採用などを検討してもいい。
では、今、どこまでやるべきか――。その悩みが企業を襲っている。
「坂口さん、あのね。結局は、どこまでやっても終わりがないとは思うんだけれど、ウチのトップから、調達部門としての指針を示せっていわれてね」。こう現場は吐露する。
サプライチェーン寸断とそのコスト
震災などでサプライチェーンの寸断が起きるたびに、さまざまな単語が飛び交う。東日本大震災のときは、BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)が有名になった。そして、次にBIA(Business Impact Analysis、事業影響分析)という概念が出てきた。
これは、リスク管理をする対象について、どれだけ自社事業に影響を及ぼすかを把握するものだ。そののちに、多大な影響を及ぼすものについて施策を練る。例えば、先ほどのサプライチェーン寸断においては、外部企業から調達する部品・部材類が問題となった。企業が部品・部材を調達できなかった場合、自社にどのような影響があるだろうか。
- *売上高の減少
- *将来売上高の減少
- *それに伴うブランド価値の毀損
- *客先からの賠償、罰金請求
- *キャッシュフローの減少
- *復旧にかかわる従業員の工数
- *復旧にかかわる従業員の残業費等
- *復旧にかかわる従業員のサプライヤーへの派遣費用等
- *工場の遊休費用
- *生産時間延長に伴う外部支払いコストの増加
- *出荷関連費用の増加
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