コストダウンは素晴らしい活動

 筆者は、日本とアメリカの企業で勤務経験がある。日本企業のすばらしさは、継続的なコスト削減の取り組みを行っている点である。アメリカの企業に勤務していれば、毎年価格が上昇するのは当たり前である。しかし、その当たり前に反旗を翻し、会計年度ごとに発生するコストを削減する取り組みを、当たり前のように行っているのは、日本企業の優位性の源泉であると実感している。しかし、近年の日本企業の不祥事を見ると、コスト削減が「限界に近づいている」を理由に、産地や構成成分の偽装が発生している。

 これは、何も原材料費だけの問題ではない。例えば、狙った成分や機能が確保できなかったとき、自社の基準は満足しないけれども、顧客の要求内容は確保できるといったケースを想定してみる。こういったケースでは、狙いから外れた製品を廃棄するよりも、できれば顧客にそのまま納入したい。しかし、納入を実現するためには、外れた成分や機能は最終製品には影響しないといった説明を顧客に行って同意を得なければならない。企業を襲う人手不足問題は、こういった手間のかかる非日常的な業務をできればやりたくないと考えるだろう。生産してしまった製品を廃却するわけにもいかない。そして、再生産に必要なリードタイムを顧客は待ってくれない。その結果、偽装に手を染めるといったケースは、どんな企業でも発生する可能性がある。

倫理的な問題として扱うべきではない

 そして、こういった問題を、問題を発生させたメーカーや販売企業の倫理的な問題として片付けてしまうのは、抜本的な解決にはならない。購入側も、支払う金額が妥当かどうかを見極める力が試される。企業間取引でも信頼関係は欠かせない。しかし、信頼関係のみに依存して、何か問題が起これば売り手の責任として片付けてしまうのでは、厳しい経営環境で偽装発生の連鎖は止められない。買い手としても、積極的なこの問題に対する解決策の実行が必要である。

購入側にも存在する責任を意識せよ

 将来的には、ブロックチェーン技術を活用した改ざんできないデータを企業間で共有すれば、偽装や混入は防げる可能性がある。しかし、そういった具体的な仕組みの確立には、もう少し時間が必要だろう。今回問題点が指摘されている医薬品サプライチェーンは、サプライチェーン管理におけるブロックチェーン技術の導入を加速させるだろう。しかし、そういった技術が確立されるまでの期間、サプライヤーから購入する製品の信頼性を、サプライヤーだけではなく購入側としてどのように確立するかが課題である。

 最も効果的な取り組みは、サプライヤーとの間に事前予告のない監査受け入れの合意である。日本的な企業間関係では、なかなか買い手として売り手に申し入れるのは難しいかもしれない。しかしこういった合意事項が、信頼関係を構成する1つの要素になるはずである。「いつ見てくださってもいいですよ」といった姿勢は購入側としても好ましいはずだ。そういった取り組みなしに、サプライヤーに一方的に責任を押し付けるだけでは、購入側企業としての管理責任が問われる時代だと改めて認識しなければならない。

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