(写真=PIXTA)

 日本の貿易額は、海外に依存する原油や天然ガスの価格の影響が大きいものの、 2016年から2年連続で黒字となっている。しかし、過去10年間の推移を見ても一貫して輸入超過となっており、超過額が拡大傾向を示しているのが医薬品である。平成19年には1.7兆円だった輸入額が、平成27年には4兆円を超えるまでに拡大している。経済のグローバル化の影響で、医薬品のサプライチェーンが海外に広がっている実態がうかがえる数字である。

 ところが、そんなグローバルに広がる医薬品のサプライチェーンにとって気になる問題を英Financial Timesが報じている。医薬品業界でも中国やインドは今や世界最大の医薬品原料供給国となっている。2カ国における生産量を合計すると全世界の生産量の80%を占めるといわれている。なかでも中国で生産された医薬品原料に、発ガン性物質が含まれ、要求規格を満たさない事例が発覚しているのだ。

 この問題のポイントは、医薬品としての最終製品が、日本や欧米のメーカーであったとしても、医薬品有効成分であるAPI(Active Pharmaceutical Ingredient)の40%は、中国で生産されている点だ。中国の医薬品原料メーカーは、日本や欧米の大手製薬会社へ製品を供給している。 多くのAPIメーカーが、規定されたプロセスに従わず生産を行い、企業を管理する行政当局も、十分なチェックが行われていないと、Financial Timesは伝えている。病気治療や健康維持をするための医薬品のサプライチェーンが今、大きな危険にさらされているのである。

日本でも発生した混入問題

 日本でも昨年、大手原薬メーカーによる中国製アセトアミノフェンの無届け混入が問題になった。このメーカーは医療用のアセトアミノフェンで国内シェア50%を占める。アセトアミノフェンとは、風邪薬の成分として解熱鎮痛効果をもつ医薬品有効成分である。まさに私たちの常備薬でも、現在中国で発生しているとされる問題が起こっていたのである。まさに人ごとではなく、医薬品のサプライチェーンにおける安全性を確保しなければならない。

 少子高齢化によって、医薬品を使う高齢者の増加と医療保険制度を支える若年層の減少により、現在日本では薬剤費の抑制が政策課題となっている。薬価基準は隔年全面改正を行っており、 2年に1度改訂の度に医療用医薬品の価格が大きく引き下げられている。こういった背景は、すべてのサプライチェーンと同じく、医薬品でも当然ながら重要な安定供給の維持に困難さが増してくる。

平時の安定供給をどう維持するか?

 安定供給とは、メーカーに何らかの問題が起こったり、地震や大雨といった大規模災害が発生したりといった要因でのみ失われるのではない。生産状況や外部環境に大きな問題がなくとも、原材料そのものが基準を満たしていなかったり、不純物が混入していたりすれば、やはり品質面での安定供給が失われる。そして今、日増しに高まるコスト削減要請が、医薬品の安定供給の逸失に拍車をかける可能性がある。

 昨年問題が発覚した事例では、中国製の医薬品原料を混入させた理由として「コストダウン」が持ち出された。この点は、これまで日本で起こったさまざまな偽装にまつわる不祥事と同じ構図である。本来コストダウンとは、同じ機能や外観を保ちつつ、発生費用を抑制する取り組みである。医薬品の場合、使用される原料のトレーサビリティーは、製品の性格上、他の業界よりも厳格に管理されているはずである。その後の調査では、試薬として購入し在庫されていた中国製原料を正規の製品に混入させて「水増し」したと報道されている。これは誤って混入したとか、在庫管理の不備といった不慮の事故ではない証しだ。