トランプ大統領の賞賛はすごいが

 トランプ大統領は、米国製を露骨なまでに賞賛し、ホワイトハウスのブログにも掲載している。米国全州の商品と会社名をあげ、下のメッセージ欄には「トランプ大統領は大統領就任の初日から、アメリカの労働者と家族のために闘ってきました(President Trump has been fighting on behalf of American workers and families since the first day of his Presidency)」とある。その他、自画自賛を含めた檄文が並んでいる。

 冒頭で私は、生産回帰の「件数」として、本当に日本へ回帰しているのかと疑問を呈した。そして、ウォルマートは何より雇用を目指している。ところで、そもそも米国に戻ってくる必要があるのだろうか。少なくとも、全業界を総じて語ってもいいのだろうか。

 その点について、面白いことに次のような指摘がある。これはPew Research Centerの情報だが、米国では製造業の雇用は大幅に減って、しかし、生産量は大幅に増えているのだ。1987年から2017年までの推移を見よう。たとえば、雇用は1750万人から1240万人に減少している。確かに事実だ。ただ生産量は倍になっているのだ。この記事では、アンケートに答えたひとのほとんどが、米国製造業の雇用が減少しているのは知っているものの、生産量が増えているとは知らなかったとしている。

 この記事では、もちろん衣料などの商品によっては海外に流れているのは事実としながらも、コンピューターや電気製品等は生産量をむしろ増やしていると指摘している。だから、一般的に生産が海外に移管する、といっても、全業界をまとめて議論するのは危険であり、そもそも全体の生産量が増加している事実を失念してはいけない、というのだ。

ウォルマートは二重離反に陥っているか

 さらに、前述のウォルマートについて、いくつかの疑念が提示されている。ロイターによると、ウォルマートは激しい競争のなかで、オンライン販売では、結局米国製ではなく他国製品のラインナップを増やしていると指摘した

 中国やイギリス、カナダなどの各企業にオンライン販売を加速するために協力を呼びかけているという。周知の通り、ネット通販では、ライバルのアマゾンが商品ラインナップでは先を行く。ウォルマートは追いつこうと、5000万アイテムを用意する。しかし、アマゾンは3億アイテムを用意しているのだ。もちろん敵はアマゾンだけではない。これからも無数に登場してウォルマートに戦いを挑んでくるだろう。

 これからウォルマートはネット上での闘いを本格化させようとしているが、やはり幅広い品揃えと、なんといっても価格優位性がカギとなる。もちろん、多くを販売することで、(製造業者という意味ではなく)店舗や倉庫管理などで雇用が生まれ、結果として多くの米国人を雇う結果になるかもしれない。ここには、雇用も大切だけれど、競争に勝たなきゃ、そもそも従業員を雇えない、というリアルがある。

 前述の記事にもあるとおり、トランプ大統領の発言とうらはらに、さほど多くの米国人は米国製にこだわりをもっていない。米国製が良い、とは共通した意見だが、多くのお金を払うほどではないと答えている。ウォルマートは、米国製造業者の刷新プログラム、オンライン戦争、米国人消費者の本音、という三者のなかでジレンマを抱えている。

 ところで、私たちは、ふたたび自問する季節に行き着いたのではないかと思う。このコラムで生産回帰について疑問を呈したのは数年も前のことになる。自問とは、すなわち、生産回帰はそもそも必要なのだろうか――と。

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。