アマゾンはホールフーズを買収することで、コールドチェーンのノウハウも手に入れる(写真=AP/アフロ)
アマゾンはホールフーズを買収することで、コールドチェーンのノウハウも手に入れる(写真=AP/アフロ)

 「サプライチェーン」の意味は多様だ。サプライチェーンを扱う報道は、従来と比較しても格段に増えた。しかし、世の中に伝わる情報量の増加とは裏腹に、サプライチェーンの「定義」が、あやふやに扱われるのが残念でならない。例えば、「サプライチェーン」にカッコつきで「供給網」や「部品供給網」が加えられ、本来持つ意味と比較すると限定された内容で表現される場合がある。カッコ付きで表現する場合は、企業全体におよぶサプライチェーン全体との関連性を、どこまで考慮しているかが問題だ。

企業全体を網羅する3つのサプライチェーン

 サプライチェーンは原材料や部品の調達から、生産、物流、販売を経て、顧客までつなぐ、広範囲のプロセスすべて含むと考えるのが正しい。ところが「部品供給網」とカッコつきで表現される場合は、自社を頂点としてサプライヤーへ広がる限定的な「サプライチェーン」だと、カッコ付きの意味するところを正しく理解する必要がある。

 そして、どんな企業でも、あと2つの限定的なサプライチェーンが必要となる。本来の包括的なサプライチェーンにおいて、全体効率を向上させ、バランスを確保するために不可欠となるものだ。

 1つ目は自社内のサプライチェーンだ。モノづくりは、原材料や部品を購入し、製造現場に払い出し、組み立てや加工、検査を行って、最終的に出荷するまでのプロセスで構成される。「部品供給網」から供給された原材料や部品を使って、どんな手順や設備で生産するかといった、生産計画や生産技術の知見も必要だろうし、構内物流では効率的なロジスティクスの確立も欠かせない。

 もう1つは、製品が自社内で完成してから顧客のもとに届けられ、そしてその役割を終えるまでのサプライチェーンだ。こん包形態や配送手段はどうするのか。メンテナンスが必要な製品なら、顧客の使用先を訪れるのか、それとも自社に戻してもらうのか――などによって、サプライチェーンを構成するリソースが異なってくる。

 サプライチェーンは、部品供給網と、社内、そして顧客への配送と、使用開始後のメンテナンスまで含め、総合的に効率性を高めて企業業績に貢献してこそ、競争力の源泉になる。サプライチェーンを構成する三つの要素すべてに、一貫性を保ち、連携したマネジメントが必要だ。現代企業における競争力の根幹は、製品やサービスの顧客満足度と同時に、円滑なサプライチェーンによって実現される効率性が担う。

ホールフーズ買収の真の目的

 アマゾンは企業全体のサプライチェーンを、事業の伸長に併せて拡大している。先日、食料品チェーンのホールフーズを買収した。このニュースは、アマゾンがリアル店舗で食品を販売する事業に進出したと捉えられている。

 しかし、従来アマゾンが扱ってきた製品と食料品は、輸送や保管時の品質管理方法が異なる。生鮮食料品の広域流通には、その輸送などの過程すべてにおいて温度を保つコールドチェーンが必要だ。ホールフーズのリアル店舗における食料品販売に加え、既存の仕組みとホールフーズが整備したコールドチェーンを組み合わせたシナジーを求めた買収なのだ。食料品だけではなく、医薬品まで含め、一気に従来のサプライチェーンと比較して、取り扱い製品の拡大が可能となる。

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