ウォルマートがはじめるお客の顔認識

 それでもなお、前述の例でいえば、価格査定の武器にはなるだろう。自分でも原価計算をして、機械学習の答えも参考にすればいい。使える武器であるのは間違いない。

 また、こういう使い方はどうか。

 先日掲載された記事によれば、ウォルマートは、店舗にやってくるお客の顔を分析する試みをはじめるという。なぜならば、店舗に不平不満を抱くお客を見つけるためだ。

 たとえば、陳列が悪かったらどうだろう。また、レジ待ちにうんざりしたら。あるいは、特定の店員の説明に辟易しているかもしれない。クレームとしてあがってくるならまだマシで、多くは潜在的で、店舗からお客を離す要因となる。

 また、お客の顔と購買額を分析したらどうだろうか。お客の顔を分析すれば、店舗の売り上げが下がる傾向を予期できるかもしれない。ただ、前述の例のように、自分の顔が知らぬ間に分析され活用されると「怖い」と感じるだろうか。

ウォルマートの万引き防止策

 なお、ウォルマートのこのような発想は以前からだ。この記事などで紹介されているように、同社は2015年に万引き犯から店舗を守るために顔認識技術を使おうとした。店舗にやってくるお客の顔をすべてスキャンし認識する。それを、過去の情報と照合する。そして店員の通信機器に注意を喚起するよう伝えるのだ。

 しかも、それがウォルマートだけではなく、他のチェーン店とも共有されたらどうだろうか。実際に顔認識技術を提供している企業がインタビューに答えているので、ご興味のある方は紹介した記事を読んでいただきたい。法律的な観点からの解説もある。

 万引き犯は更生するだろうが、こういった取り組みが買物に支障を与える可能性もある。しかし、店舗側からすれば、小売店の利益率はそもそも低いので、万引き被害に遭うのはなんとしてでも避けなければならないリアルがある。同時に誤認のリスクは小売店にとっても高い。顔認識はプライバシーに関する議論をしばし呼んできた。

 そもそも顔認識を導入しても、それを宣言する企業は少ない。顔認識技術を提供し、分析のコンサルティングをする会社があっても、もちろん秘密保持契約があるだろうから、名前を明かすことはないだろう。

小売店の顔認識技術

 たとえば、小売店のSNSページがあったとして、お客にログインしてもらったらどうだろう。小売業者はSNSに載っている顔写真を分析できる。リアル店舗にやってきてくれたら、名前を聞かずとも、名前や家族構成、趣味や嗜好(思考)をすでに把握しているかもしれない。

 ジョージ・オーウェルの『1984年』は管理社会の恐怖と生きづらさを書いたが、顔写真をきっかけに個人がタグ付け管理される不気味さは消えないかもしれない。

 たとえば、小売店でいったんカゴに入れたものを、ふたたび棚に返却するとき、お客はどんな顔をしているだろうか。その顔の集計によって、さまざまな事実が見えてくるかもしれない……と考えるのは私が企業よりの人間だからかもしれない。

 顔認識技術の進化は、もちろん法律の問題もあるが、私たちに倫理的な問題を投げかけている。