「先生、あまりに古臭いな」

 講義終了後に、受講者からこういわれて気持ちいい人はいないだろう。私は現在サプライチェーンや調達・購買関連のコンサルティングに従業している。その仕事の一部として、海外調達や現地調達について講義でお話しする機会がある。

 海外サプライヤーの品質が向上しているからといって、まだまだ日本企業の求めるそれと乖離するケースがある。どこまで日本水準を求めて、どこからあきらめるか。これはいまだに日本企業にとって大きな課題になっている。

サプライチェーン改革のなか遅れる大企業

 絶対的な解決方法はない。現場に行って、現物を見て、そして現実と向き合いながら、地道にぶつかっていくしかない。そのときビジネスプロセスの把握や、契約書、そして価格査定などが重要となる……。とまあ、このような話をしていた。

 しかし、旧来的、大企業的なこのやり方に、その受講者は不満だったらしい。そこで「先生、あまりに古臭いな」というわけだ。いわく、私のやり方では、もはや中小企業は勝てない、という。過激なほど高速でビジネス環境が変わっていく現在、そのようなやり方では、アジア勢に負けてしまうのだという。

 うむ……。

 と言いかけた私に、受講者は教えてくれた。いまでは、希望商品のポンチ絵を書いて、スマホで送付するんですよ、と。そして、もちろんチャットで話を詰め、そして、ウェブカメラで構成部品を見せてもらって、その場で付属の有無を決定。即断即決で進んでいき、数時間後には、生産仕様が決定している。さらに数時間後には見積書が届き、注文するかを迫られる。簡単な契約を締結したのちには、すぐさま現金の支払い。もちろん決済には、「Alipay」を使用する、と言う。

 生産まで、わずか一日。

 言い訳ではないが、同領域の講師の中では、私はこの手の情報を積極的に摂取しているほうだ、とは思う。定期的に海外にも出かけているし、シンポジウムにも参加している。しかし、大手企業と仕事をする機会が多いために、考え方が旧来的なやりかたを前提としてしまっていたのだろう。もちろんこれからも基本的な手法を教えることに変わりはない。ただ、スマホを使ってカメラとチャット(メッセンジャー)で打ち合わせをし、支払いまで完結してしまう世界も確かにあるのだ。

フィンテックの誕生とビジネスの変容

 ところで、Alipayとはご存知の方も多いかもしれないが、アリババが提供するサービスで、中国でもっとも使われている決済手法だ。国内ECサイト、そして越境ECといわれる中国人向けビジネスでも活用されている。同様のサービスでは世界的にはPaypalなどが有名で、その他、有象無象を含めると、無数のサービス提供業者がいる。

 以前の海外からモノを買うとき、あるいはモノを販売するときの煩雑さから比べると、画面で完結する利便性は驚愕するほどだ。また、現在、「subscription business model」なる言葉が流行している。これは、わかりやすくいえば、定期購読や定期支払のビジネスモデルのことだ。昔は、個人や中小企業が誰かに定期請求をしようとしても難しかった。それが今ではすぐにできる。

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