6月15日、過積載の大型トレーラーを高速道路で走行させたとして、運送会社と運転者の実名が公表され、所轄の県警本部に告発された。公表された運送会社は2社。それぞれの運送会社の社長と運転手、計4人の実名も明らかにされた。違反内容は、道路運送車両法の保安基準制限値の2倍にもおよぶ車両総重量で行われた走行だ。

 この事件が示す内容は、サプライチェーンを管理する調達・購買部門や物流管理部門にも、大きな影響を及ぼす。過積載は、大きく2つの問題を引き起こし、企業のサプライチェーンの断絶だけではなく、ブランドイメージも大きく毀損(きそん)するかもしれないのだ。

劣化する道路インフラ

 1つ目の問題は、過積載した車両が通行する道路への影響だ。国土交通省の行った「大型車の道路に与える影響」の試算によると、「全交通の0.3%の過積載の大型車両が、道路橋の劣化に与える影響の約9割を引き起こしている」とされている。今回告発された事例でも、基準の2倍以上の積載量が確認され、悪質と認定されるに至っている。過積載に限らず、企業は事業運営に際して法令を守らなければならない。この問題はコンプライアンスのみならず、現在日本の抱える大きなリスクの顕在化を避ける目的がある。

 日本の物流網を支える道路の劣化状況を、道路構造物(橋)でみてみよう。全国に約70万ある橋のうち、橋長15m以上で、修繕が必要となる橋は6万8800カ所にのぼる(平成25年4月時点)。2015年11月に発表された「道路メンテナンス年報」をみても、橋だけではなくトンネルも含め、思うように点検も進んでいないのが実情だ。

 修繕や点検が思うように進まない中で、少しでも橋に代表される道路の劣化を防ぐ狙いが、過積載の取締強化の背景にある。「老朽化の現状・老朽化対策の課題」と題された資料は「最後の警告―今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切れ」「今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切らなければ、近い将来、橋梁の崩落など人命や社会システムに関わる致命的な事態を招くであろう」と強い危機感を訴える。過積載は、劣化した道路インフラに致命的なダメージを与え、道路使用者から、致命的な事態への「加害者」となる事態を招くのだ。

悪化するトラック整備環境

 もう1つは、トラック寿命の長期化である。少し古いデータになるが、2010年に社団法人日本トラック協会が発表した「トラックの寿命」を参照すると、トラックの平均車齢は年々伸びており、使用年数も長くなっている。トラックは輸送用機器であり、機能を保ったまま長期間にわたって使用するには、適切なメンテナンスが欠かせない。使用年数が長期化しても、正しいメンテナンスを行っていれば問題はないだろう。

 しかし、メンテナンスを行う自動車整備士の数は、2011年以降減少傾向を続けている。2011年と比較して2015年では7277人減少している。国土交通省が2013年に発表した「自動車整備技術の高度化検討会報告書」によると、自動車整備に関連する大学校や専門学校への入学者数は、10年前と比較して半分以下に減少している。寿命が延びた車両を、これからも十分に整備できる人材が確保できるかかどうか不安が残る。整備の行き届いていない車両で、過積載が行われると、車両の劣化が進み、故障の発生は事故につながる可能性を高める。

 日本経済を支える輸送は、これまでドライバーの高齢化と人手不足の問題がクローズアップされてきた。加えてドライバーの安全運行を支える道路インフラや、車両のメンテナンス体制にも、見逃せない問題が存在することを理解できただろう。それではこういったリスクが、事業運営にどのような影響を及ぼすのだろうか。

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