航空機1機には、300万から600万点の部品が必要と言われる。ローンチカスタマーである全日空は日本だ。しかし、これまでに受注は447機を数え、納入が予定される航空会社の所在地は、米国、東南アジア、欧州に広がっている。機体完成時の納入に加えて、安全運航には欠かせないメンテナンス部品に必要なサプライチェーンを、顧客企業の所在地だけでなく、運航先まで広げて構築しなければならない。

 製造に必要なサプライチェーンは、既に構築されている。日本通運が三菱重工とサプライヤーを結ぶパーツセンター用倉庫を今年の1月に完成させた。しかし、メンテナンスやサービスに必要な、運航される各地域の空港まで含めたサプライチェーン構築も、安全運航には欠かせない。機体認証と技術的な安全性確保と同時に、各地のハブ空港はもちろんのこと、その先の地方空港までを含めた供給体制を機体納入までに確立する。こういったこれまでに経験のない仕組みの構築が、三菱重工に求められていたのだ。

サプライヤーとの関係の「寿命」

 MRJ生産を担う三菱重工の名古屋航空宇宙システム製作所は、その前進から数えても、100年近い歴史ある工場だ。同製作所を中心とした航空機・宇宙機器の産業集積も存在する。今回、部品調達拠点を神戸に移す狙いの1つは、MRJに必要な部品を製造するサプライヤーを全国に求め、よりコスト競争力の高い部品を購入することだ。その一方で、長期的な協力関係を保ってきた協力会を解散する必要があったのか、そんな疑問が残る。

 どんな企業であっても、事業運営に必要なリソースのすべてを、社内では賄えない。自動車や電機といった日本を代表する産業や企業で、有力なサプライヤーを協力会として組織し、事業を運営してきた。一方で、多くの企業にとって協力会に加盟するサプライヤー、そして協力会そのものが悩みの種になっているのも事実だ。それは、激変する経営環境によって、ニーズが変化しているにも関わらず、協力会のメンバー企業が固定化している場合に顕在化する。そんな状態にある発注企業とサプライヤーの企業間関係は、既に寿命を来していると考えるべきだ。

 同時に、協力会組織と運営体制の双方が制度疲労を起こしていると言って良い。本来であれば、発注企業が営業活動を行う市場の変化を機敏に捉え、変化に応じてサプライヤーが自ら変化しなければならない。その代償が、三菱重工のような大手企業の有力な協力会社である証としての協力会メンバーの立場だ。しかし協力会メンバーがその立場を既得権とし、現状維持をもくろんだら、協力会運営は機能不全に陥る。

サプライヤーごとに異なる対応

 サプライヤーとの関係に寿命が来してしまう要因の1つがこれまでの発注方針だ。日本経済の拡大局面では、サプライヤーごとに異なる方針や考え方は必要ない。発注企業とサプライヤーが足並みをそろえて、目の前の課題に取り組めば良かった。

 しかし経済的に停滞し、ただ足並みをそろえるだけでは結果が伴わなくなった。頑張ってコスト削減を行っても、業績は回復しない。結果的に、日本経済はデフレ状態に陥った。業績に関しても、国内企業がそろって回復しなくなった。それは、特定業界の、特定企業の、特定商品が売れるといった形で、景気の良しあしが細かいメッシュで表れている。

 そういった経済状況では、極論すれば購入しているサプライヤーの数だけ戦略が存在する。また、事業内容によっては、購入の継続が適わないサプライヤーもいるだろう。発注企業とサプライヤーが協力しなければ、大きな成果が得られず、顧客への責任も果たせない。発注企業のニーズに応えられないサプライヤーからの購入は、ためらいなく止める必要があるのだ。

 三菱重工のMRJ生産では、サプライチェーンが世界に大きく広がる点で、ドラスチックに経営環境の認識を変える必要があった。MRJの開発が始まって10年が経過しようとしている今、当初の予定より大幅に遅れている納入スケジュールもあり、社内とサプライヤーの双方に強い刺激が必要だったことは想像しやすいはずだ。

 旅客機の開発が三菱重工から発表されたとき、国民の多くがその取り組みを称賛しエールを送った。「国産初のジェット旅客機」の言葉がロマンを感じさせた。MRJビジネスの成功には、生産にも、そして安全運航にも、高度なサプライチェーンの管理が必要だ。サプライチェーンはロマンではなく実在する仕組みであり現実である。今回の取り組みにより、さらに遅れることなくMRJの生産が始まること、そして安全に運航が始まること。2つの実現を願う。

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