最近、調達・購買のコンサルティングの場で議論されるテーマが大きく変わっている。従来のようなコストダウン一辺倒ではなく、どうしたらサプライヤーから希望通りの納期に納入してもらえるのか、現在発生している納期遅延をどのように解消するのか――これらがもっとも緊急度の高いテーマになっている。

 苦しんでいる企業の実情を聞けば、多くのバイヤーがサプライヤーの納期遅れに悩まされているのはうなずける。製品や業界によっては、納期照会を行っても「いつ納入できるかわかりません」といったつれない回答が当たり前のように行われる。そんなにわかには信じられない回答を営業パーソンがするほどに需要が高まり、供給が切迫しているのだ。私が知るある企業では、これまでの戦略を全面的に見直し、調達・購買部門の最も大きな役割であるコスト削減は全くしなくて良いとの英断を下した上で、新たにサプライヤーの納期遅延解消にのみ取り組んでいる企業すらある。それほどに事態は深刻なのである。

解決策が限定される納期遅延問題

 ひとたび納期遅延が発生すると、問題の解決方法は極めて限定される。まして現在のサプライヤーを取り巻く環境を踏まえると、問題はより深刻であり容易に解決できない。人口減少による労働力不足と、働き方改革の実践による残業規制は、需要増加に対する対応力を確実に弱めている。特に、需要増加への対応能力は極めて限定される。結果的に、調達・購買部門では効果的な解決策が見出せないまま、業績への悪影響を背負わされる結果につながっている。

 一部の企業では、サプライヤーの生産能力のみならず、自社の生産能力も超える受注を抱え、顧客との契約通り納入できないと思い悩んでいる。一時的な受注の急増ではなく、すでに数カ月から数年、そういった状況が継続している企業もある。ここで、一つ疑問が浮かぶ。なぜ自社の生産能力を超える受注をしてしまうのか、である。

 原因を探っていくと一つの大きな問題が浮かび上がる。多くの企業で発注見通しをサプライヤーに明確に伝えていないのだ。受注が確実になってからサプライヤーへ発注しているのである。あらゆる業界・業種で、調達に要するリードタイムは短縮化の一途だ。時間的に短い受発注サイクルの中で、顧客動向から受注見通しをはじき出すのが難しくなっているのは理解できる。しかし、サプライヤーの能力が限定的である今、先々の見通しの提示こそ、納期を確保する第一の準備手段である。しかし、そういった将来対応に取り組んでいる企業は、残念ながら驚くほどに少ない。

できるかどうかを確認せずに受注する営業

 サプライヤーや自社の生産能力が限られていても、明確に受注を制限している企業はほぼない。確かに、日本経済は長年需要不足に悩んできた。旺盛な需要がある今こそ、あらゆる手を使って、できる限りの受注に対応したいのがすべての企業の本音だろう。だからといって、社内的に対応可否の確認を事実上行わずに、営業部門のみの判断で受注するのは、納期に主体的な問題意識を持っていない証拠である。話を聞いた企業のほぼすべてで、積み上がる受注量の管理は弱い、あるいはほぼ行われていないのが実情だった。

 生産能力は限定されているにもかかわらず、従来と変わらないあるいはさらに短縮化したリードタイムで受注が積み上がれば、間違いなく希望する納期通りにサプライヤーから納入されない。そしてその結果、顧客が希望する納期には納入できず、納期遅延が発生する。現在発生している納期問題の多くは、リードタイムの短縮によって販売見通しの確定が難しくなった中で発生している。いうなれば、営業見通しの確認を事実上放棄した営業部門にも、相応の責任が存在するのである。この点は、いまこそ調達・購買部門が声を大にしなければならない。

 調達・購買部門の従来の取り組みにも問題がある。問題解消に伴って行われるアクションは、結果的に調達・購買部門とサプライヤーとの間だけで行われる。発生している問題の根源には、発生した問題の解決をサプライヤーにだけ過度に依存している調達・購買部門の考え方や姿勢もあるのだ。サプライヤーと同じくらい、社内に対して発言し、納得を得られる説明をしてきたかどうかが今、問われているのである。

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