企業の商品のうち、薄利多売の大量生産品はアジア、高利薄売の単品生産は自国で、という構図がありうる。なによりも、単品生産が可能になれば、在庫を減らすことができる。また、キャッシュフローも改善する。大量生産工場が生産できない過剰分を、ロボット側で代替生産することも可能だろう。
ロボットが代替することによって、全体の労働コストは減少していく。いくつかの予想によると、2025年までには33%ほど下がっていくのではないか、としている。
3Dプリンター技術がどこまで進化するかはわからないが、ロボットと3Dプリンターによって米国やヨーロッパ、日本に生産が戻ってくることも期待できる。それは、生産は戻るけれども、雇用は戻らない、という「不都合」な生産回帰かもしれないけれど。
ロボットが代替する素晴らしき世界
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、先進国の労働者不足と、そして新興国の労働コスト上昇によって、ロボットに代替される機会が増えている。ロボットの販売量は、2014年から2018年までの間に倍増して、年間で40万台規模になる。
経営の立場からいえば、工員の雇用確保は大きな問題だ。しかし同時にコスト増に対策を練らねばならない。なにより利益を創出しなければならないからだ。
もちろん、このロボット化が途端にすべての労働を奪うというのは極論であり、間違っている。アディダスの新工場では、同社の年間生産量の1%をカバーするにすぎない。
米国での衣料や靴の生産量は、6年ほど伸び続けている。しかし、生産「量」は増えているものの、それ以上に新興国の生産量が増えているのも事実で、米国では衣料の97%と靴の98%は輸入である。
ロボット・3Dプリンター導入におけるサプライチェーンの縮小化
ところで、私はロボットや3Dプリンター導入による本当の価値は、サプライチェーンの縮小化にあるのではないかと思っている。これまで、サプライチェーンは拡大し続けていった、設計、生産、調達、物流、販売……といったプロセスのどこかで、諸外国と複雑に絡み続けた。日本の熊本で震災が起きれば、遠い米国で自動車メーカーのラインがストップした。天津で爆発事故が起きれば、予想もしなかった日本メーカーの物流が止まった。
このようなサプライチェーンの複雑化は、大きく3つの問題を生んだ。
- リードタイムの長期化
- サプライチェーン管理の煩雑化
- 震災等リスクの上昇
この連載でも何度も書いてきているように、震災等が起きたとき、まずティア構造のなかにいるサプライヤーを把握できていない。ティア構造とは、いわば、下請け、孫請け、ひ孫請け、といった生産連鎖を指す。ティア1までならばまだしも、ティア3、ティア4までにいたると、どんな企業から支えてもらっているのかも把握できないのだ。ティア1が日系企業であればまだしも、ティア2以降が海外企業だった場合、途端に難しくなる。グローバルにサプライチェーンが広がっていくなか、その難易度は毎年のようにあがっている。
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