私の本業はコンサルタントで、セミナー講師なども請け負っている。そうすると、他の講師が使用しているテキストなどを拝見する機会がある。

 ちょっと数年前のことだ。

 米国で書籍「The Sales Acceleration Formula」が流行していた。これはデータを活用し、いかに企業間営業を成功させるかについて、綿密な分析と情熱で書いた奇跡の著だ。「Using Data, Technology」と副題にあるように、科学的なアプローチを採用している。私は、その真逆の調達・購買業務を主戦場とするものだが、その緻密さに驚愕した。

 たまたま、その書籍を拝読した翌日にセミナーの仕事があった。隣の教室では、営業セミナーをやっていた。「まず人間関係を築くのが大事」からはじまって、一昔前の心理学テクニックがならぶ。「価格交渉のときは、相手の要求を、まずおおげさに驚いてみせなさい」などなど。

 私はその日米差に卒倒しそうになった。このままでよいのだろうか――。

 私は率直に、セミナー会社の担当者に話してみた。

 「おっしゃるとおりなんです」

 「じゃあ、もっと科学的なものをやったらどうですか」

 「それはできません」

 「なぜですか」

 「ニーズがあるからです。難しい内容ではついていけないひともいる。何よりも、やる気になって帰るのが一番だから、どんな内容でも満足できればいい」

といわれた。まったくの正論である。

 しかし、それにしても――。という思いは残る。弛緩するだけで絶望を感じることもない。こんなにデジタル化が進み、ボーダレスになっている状況において、これが来るべき営業の姿だろうか、と。もちろん、対となる調達・購買もおなじだ。

 むしろ旧世代が教えている内容など古いと一蹴し、新たな像を提示しようとする「生意気さ」こそ、これからの社会人に必要ではないだろうか。