従来からある製品に、新たな機能を搭載して「もったいない」意識を行動に移すため具体的にサポートすることも必要だ。もったいない意識が高い消費者は、買い物に行く前に冷蔵庫の中味を確認する。同時に次に買い物へ行くまでの期間に必要な食料を想定して考える。しかし、仕事帰りに買い物をするケースを考えてみる。出勤する朝に、あらかじめ買い物をする食料を、冷蔵庫のストックを確認しながら想定するのは困難だろう。従って冷蔵庫の前面に中味を表示し「見える化」を実現するだけでは、食品ロスの減量化へ貢献することは少し難しい。そして日本には、ある程度食料を保管しなければならない事情がある。

1週間分の食料保管が必要な日本

 4月に発生した熊本地震でも、震災発生直後に支援物資が届かない問題がクローズアップされた。昨年9月に発行され東京都内の各家庭に配布された防災ブック「東京防災」には、「日常備蓄」と称して「支援が届くまでの少なくとも1週間は、誰にも頼らず暮らせるように備えること」を推奨している。具体的な方法は、なくなったら困るものを買い置きして、古い順から使用するだけ、と書かれている。生活に必要な食料や水に加えて、アルコールといった嗜好(しこう)品も「在庫」を準備し、その消費を「先入れ先出し法」で行うのだ。

 1週間分の食料を常に自宅に在庫するには、買い物する頻度によって在庫量が異なってくる。また、生鮮食料品など、1週間とはいえ在庫には向かない食料の取り扱いも含めると、常に1週間分の食料を在庫するには、少し面倒な管理が必要だ。そして、こういった家庭内の「日常備蓄」の最大の障壁は、日常生活の便利さだ。

 コンビニでは、欲しいときに必要な数量だけ購入できる。食糧を備蓄するよりも、必要となった都度、コンビニで購入すれば消費段階のロスも発生しない。進化した流通・小売網が、家庭内の「日常備蓄」の意欲を減退させる。

 しかし、あくまでも平常時の生活が維持された場合に限られる。4月に発生した熊本地震の直後、支援物資が避難所に届かない事態が起こった。そういった事態は、自動車部品や電子部品と同じように、食料、飲料水といった生活必需品のサプライチェーンでも発生する。

 調達・購買の現場では、東日本大震災以降、地震に代表される災害の発生時に、どうやって自社のサプライチェーンを維持するかが大きなテーマとなり、各企業でさまざまな取り組みが行われた。東日本大震災の発生前は、推奨される各家庭の食糧の備蓄量は3日と言われていた。実際に災害が発生すると、平常時に最適化されたサプライチェーンの回復には想定以上に時間を要した。その結果「東京防災」では、1週間の備蓄を推奨するに至っている。

まず自分達で生き抜く準備が必要

 東日本大震災の主な被災地である岩手、宮城、福島の人口は、日本の全人口の5%だった。今回の熊本地震の被災地を、熊本、大分と両県と仮定すると、全人口に占める割合は2.4%だ。日本経済を支える、首都圏、中部圏、近畿圏には震災の直接的な被害がない状態で、熊本では被災物資が届かない問題が発生した。

 これが関東や関西の大都市圏で発生したらどんな事態に陥るだろうか。首都圏の東京、神奈川、千葉、埼玉は、国内全人口の約4割が生活している。交通網の寸断による影響、数万人の避難所生活でも生活再建に必要な仮設住宅が十分に行き渡らない現実を目の当たりにして、首都圏のような大都市で、熊本地震のような直下型地震が発生したらどうなるのか。ちょっと想像がつかない。

 しかし、生活再建を行うためにも、震災発生直後の外部からの支援が期待できない期間、どうやって生きのびるかが重要だ。普段の生活サイクルの中に、どのように「日常備蓄」を取りいれるか。その上で食料ロスを生まないためのインフラやノウハウが必要だ。十分な備蓄を行っても、賞味期限の到来で食品ロスを発生させない消費をうながすアラート機能や、冷蔵庫や食品庫における先入れ先出し法を実現する適切な保管のノウハウの共有が重要だ。

 こういった点は、日本のモノづくりの現場で実践されている現品管理のノウハウが生きるはずだ。日々の便利な生活の中で、定期的な消費を前提とし、ロスを生まない適切な食料の在庫の管理と消費が必要なのだ。

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