先日、出版セミナーに呼ばれて行ってきた。これは、人生のうち、一冊でも書籍を書きたいひとたちへ、その方法論を伝授するものだ。私は専業作家どころか、書籍からの収入はほとんどない。しかし、これまで27冊も書籍を書いてきた。もともとは、本業で得た知識を本にまとめればいいとはじめたものだ。
今では声をかけてくれれば、編集者と仕事をはじめる。そこにノウハウらしきものはない。30代のはじめには、年間6冊も書いた。ライターを使わなかったため、毎日のように締め切りとゲラに追われていた。ただ、書く内容を探すなどで苦しかったことがあったかというと、事実は逆だった。ネタをためていたわけではない。それでも、次々と表現すべきものがあった。そして、そのときは、この執筆量がずっと続くものだと信じていた。
ただ、現在では本業がより忙しくなったのに加え、私の専業であるサプライチェーン分野では、おおよそ書いてきた感がある。この連載のように時流を語るものを残し、徐々に仕事を移してきた。
自分の能力限界を知る方法
すこし個人的な話をお許しいただきたい。
あるコンサルタントと話していたとき、プロダクトライフサイクルの話になった。商品は「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4段階を経る、というあれである。商品が市場に浸透し、そして時代遅れになっていく、その過程を典型例として示したものだ。商品を最初に手に取る人は少ない(「導入期」)、しかし、あるときを境に市場から受け入れられる(「成長期」)、そして利益を稼ぐ商品となり(「成熟期」)、伸びは鈍化し新たな商品と替わる(「衰退期」)。
それで面白いのは、そのS字に似たカーブが、一人の人生にもあてはまる、ということだ。なるほど、面白い。その人が仕事を覚え(「導入期」)、そしてバリバリ仕事をし(「成長期」)、稼げるようになり(「成熟期」)、そして引退していく(「衰退期」)。そして、そのカーブは統計分析で「ロジスティック曲線」や「コンベルツ曲線」で相似できるという。
厳密な説明ではないものの、「ロジスティック曲線」や「コンベルツ曲線」とは統計上、S字カーブを彷彿させるものだと考えてもらいたい。
例えば、国民的歌手が新曲(シングル曲)を発表してきた年度と、その枚数累積を分析してみた。趣旨ではないため固有名詞は省く。
面白いほど、このグラフにあてはまった。統計上の予想値と、実際値を重ねているが、まるで予想されたように動いていた。
面白がって、さまざまな分析をしてみた。もちろん例外はあった。ただし、多くのアーティストにあてはまった。考えてみるに当たり前かもしれない。徐々に人気になり、国民的スターとなったら、発表曲も増えていく。そして徐々にあきられ、消えていく。才能がある人は、線が伸び続ける。とはいえ、若いころとずっと同じペースにはならない。
そこで、と思った。ためしに、自分を分析してみよう、と。仕事量を見るに、適当なものを探したが、結局は書籍の出版数とした。自分が書籍を発表してきた年度と、その書籍数累積を分析してみた。
怖くなった。
自分は「次々と表現すべきものがあった」、そしてピーク時の「執筆量がずっと続くものだと信じていた」と書いた。しかし、そんな私とて、結局は統計的な分布にしたがっているだけだったのだ。
この分析が突きつけた意味は大きかった。いわば、このままではダメだ、とあらためて私に教えてくれたのだ。このままでは、限界に達するのは目に見えている、と。私だって、かなり勉強しているほうだ、と思う。しかし、それでも、1つの分野で安住していたらジリ貧になる。
では、どうすればいいか。やらねばならないことは単純だ。異なるもう1つのS字カーブを作ればいい。次の成長カーブを描けばいい。「優れた人は、次々に挑戦できる」「過去を捨てられる人が生き残る」……といったことがいわれる。私は、くしくも、統計的に自らそれを証明してしまった。
私が意図的に仕事のジャンルを移動してきたのは、この分析によるところが大きい。いや、極端な話、この解釈が間違っていようがかまわない。少なくとも、未来永劫、ずっと続くモデルなど存在しないのだから。
アップルの失速と日本勢への影響
アップルが安価な中国製スマートフォンに押されて失速している。日本経済新聞電子版では、2016年4月28付で以下のように報じている。「2016年1~3月期の販売台数は、前年同期比16%減の5119万台となった。今後、2016年の生産も『前年比マイナス』が続く見通しで、みずほ証券は2016年通年のiPhone最終生産数量を従来予測の2億2400万台(前年比11%減)から2億600万台(同18%減)へと引き下げている」。
次に、スマートフォン、とくにiPhoneを収益の柱として位置づけてきたメーカーの状況を見てみようと思う。日本勢からだ。
ソニーが先月に発表した、2016年3月期の決算では、売上高8兆1057億円、営業利益2942億円で黒字を確保した。しかし、イメージセンサーが芳しくなかった。同部品はスマホ用カメラに使われる。為替の好影響があったものの、「デバイス分野は、主にイメージセンサー及び電池事業の大幅な減収により、分野全体で大幅な減収となりました」とある。
また、「2015年度 連結業績概要」の発表内容を見てみると、「イメージセンサーについての反省は、結果的に顧客からの需要数量を大きく読み違えたことにあります」と述べ、「イメージセンサーを当社の成長ストーリーの中核としてきていることもあり、この業績の悪化については大変重く受け止めております」と総括している。
デバイス分野は、イメージセンサーだけではないものの、9358億円の売上高で、286億円の営業損失だった。同社は中国のスマホメーカーから積極的に受注しているため、まだ今期以降を注視する必要がある。ただ、稼ぎ頭は、ここにきてiPhoneの失速の影響が利きだした。また、同部品を主力に生産するソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの熊本テクノロジーセンターは熊本震災の影響を受けている。本格的な回復は、不透明で、少なくとも1年以上はかかる。
次に、先週発表されたばかりの、ジャパンディスプレイの業績を見てみよう。同社も前年度は、通期で9891億円の売上高と、167億円の営業利益を出している。しかし、第4四半期は、1763億円の売上高に72億円の営業損失となった。「スマートフォン向けディスプレーの顧客需要がすべての地域において軟化したことにより、想定売上高を下回った」とし、呻吟している。
これまた先週発表されたばかりの、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下となったシャープはどうだろうか。売上高は2兆4615億円と前年比11.7%の落ち込みで、営業損失は1619億円だった。そのうち、ディスプレイデバイスに関しては、7715億円の売上高で、1291億円の営業損失と、全体の営業損失のかなりを占める比率だ。「第4四半期に大手スマートフォン顧客向けの販売が落ち込んだことから、前年度比14.9%減の7715億円となりました」と「2015年度 決算概要」で述べている。
日本電産は、スマートフォン以外のビジネスがあるため、それでも好調だった。連結の売上高は、1兆1782億円で営業利益は1245億円と、堂々たる成績だ。しかし、スマートフォン向け触覚フィードバック部品は予想以下で、「『その他小型モーター』の2015年度第4四半期の売上高は503億9100万円と、直前四半期(第3四半期)に比べて、31.8%減った」としている。これはiPhoneの影響が出たもようだ。
アップルの失速と海外勢への影響
これらの影響は、もちろん日本メーカーだけではない。例えば、シャープ買収で報じられているホンハイはどうだろうか。ホンハイ、通称FOXCONNは誰もが知る通り、iPhoneの主要アセンブリー企業だ。同社の四半期決算を見てみよう。第3四半期の利益は303.9億台湾ドルから、275.8億台湾ドルへと約10%減少した。それは厳しい業績を発表した。同社は最大の顧客がアップルで、iPhoneのアセンブリーが60%を占め、それ以外のアップル製品をあわせると70%にもなる。当然、この一本足打法は、アップルの業績に左右される。1~3月期の純利益(Net profit)は41億台湾ドルと、昨年比35%も下がった。そして4~6月期の業績も下がる予想だという。
その他、無数のメーカーが通期、あるいは四半期業績の不調を伝えている。そして、その理由としてiPhoneの減速をあげている。中国の格安スマホに納品している企業、あるいは日本電産のように他の分野で強い企業は、それほどではない。ただし、これまで頼りにしていた分野がいきなり頭打ちになった感はある。
これについて個人的な見解は間接的に自分の経験から書いておいた。日本ではガラケーの人気が根強いとはいえ、スマートフォンが人々に浸透していったあと、低価格層は格安スマホメーカーがそのシェアを奪取し、そして高価格帯は伸び悩みのジレンマに陥っている。
もちろん、プレイヤーの各社もバカではない(はずだ)。ホンハイもシャープとシナジーを生み、新たな分野に挑戦するだろう(と願いたい)。そのための連合だったはずだ(と信じたい)。またアップルも、iPhoneやiPadやAppleWatchだけではない、次なる革命的商品を生み出してくれるだろう(と個人的希望)。
新たなS字カーブを創りだすときには、これまでの商品から脱皮する必要があるのだから。
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