(写真=Richard A. De Guzman/アフロ)
(写真=Richard A. De Guzman/アフロ)

 熊本の地震では、トヨタ、ソニー、三菱電機といった日本の大手企業や関連する協力会社が被災し、東日本大震災に続いてサプライチェーンが断絶する事態に陥った。大きな災害のたびに繰り返されるサプライチェーンの断絶、実は平時にその兆候が確認できる。日本企業の抱えるさまざまな問題が、災害時におけるサプライチェーンにも大きな影を落としている。

倒産より深刻な事業継承の断絶~廃業

 1980年代以降、日本では「開廃業率の逆転」が大きな問題としてクローズアップされてきた。最新の中小企業白書を見ても、一部中規模企業には開業率の増加といった改善の兆しがみられるが、中小企業の総数では減少傾向が続いている。こういった現象は、日本経済の活力減少の表れとして問題視されてきたが、災害時のサプライチェーンにも代替メーカーの減少として影響をおよぼしている。

 2014年2月、首都圏では2週間連続して大雪に見舞われた。このとき、道路の維持管理をおこなう地方自治体では、融雪剤の不足に悩まされた。日本の融雪剤は、ある製品の製造工程の副産物として生産される。したがってある製品の生産が低迷していれば、副産物である融雪剤は、需要が高まっても増産できない。融雪剤メーカーも現在では国内で1社となっており、冬季の高需要期に工場が停止する事態が起きると、一気に融雪剤不足の問題が顕在化するだろう。我々の知らないところで、サプライヤーの減少は進んでいるのだ。

 東日本大震災の発生後、日本の産業構造がピラミッド型ではなく、ダイヤモンド型や樽型と称され、上位企業よりも多いはずのサプライヤーの社数が少なくなっている現実が明るみに出た。こういった事態を受け、東日本大震災以降、多くの企業で複数のサプライヤーから供給を受ける体制の構築を進めた。

 しかし、今回の熊本での地震発生によって、一時的とはいえ部品供給がストップし、工場稼働の停止を余儀なくされた。供給ソースを複数確保すれば、大きな災害の発生時には供給継続の可能性が高まる半面、平時の効率面からみればサプライヤー1社への発注量の減少につながる。また、発注企業側の発注にともなう業務も増大し、なかなか簡単には実現しないのが実情だ。加えて、多くの大手企業にとってサプライヤーとなる中小企業の総数の減少傾向は、より多くの供給ソースを確保する活動の障害になっている可能性が高い。

ノウハウ継承の断絶

 日本では、団塊の世代と呼ばれる1947年~1949年に生まれた世代が60歳定年を迎える年に、「2007年問題」として、さまざま設備機器の保守管理に重大な問題が発生すると言われた。2007年から10年近くが経過し、危惧された重大な問題が発生しているのだろうか。総務省消防庁が発表している「平成26年中の石油コンビナート等特別防災区域内の特定事業所において発生した事故の概要の公表」にある、事故発生件数の推移を見ると、2000年頃から事故が増加傾向に転じ、2006年から事故発生件数が際立って増加している。

 事故発生件数のデータは、1976年(昭和51年)から2014年(平成26年)までの推移を掲載している。1976年から1993年までは一貫して減少傾向だ。団塊の世代が40歳代中盤を迎え、設備管理レベルを高めて、企業の操業維持に貢献していた姿が目に浮かぶ。以降、阪神淡路大震災によって一時的に事故が増大し、以降ジリジリと増加傾向へと転じ、掲載されたグラフで確認できる限り、事故発生率は高い水準を維持してしまっている。これには、2つの原因が想定できる。

 1つは、設備の老朽化にともなう事故の発生だ。バブル経済以降、多くの企業で過剰設備に悩まされていた。老朽化した生産設備の更新よりも、現有設備のメンテナンスによる長寿命化によって生産を維持した。そういった取り組みの結果、団塊の世代はさまざまなノウハウを蓄積した。生産維持は、新たな設備を活用するよりも、過去の経験を踏まえた高いスキルとノウハウを活用する「ヒトの力」で行われていたのだ。

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