
自動車メーカーで働いていたころ、図面を受け取るたびに緊張していた。私が所属していたのは調達部門だった。設計部門から図面を受け取り、それを生産技術関連社員やサプライヤーとともに価格を査定する。
例えばプラスチックの成形部品で問題があれば、その図面を受け取ってしまった私が責められる。「そもそもこの形だったら成形できないだろう」「これ、どうやって生産するんだよ」「この抜き角度だったら、金型が成立しないだろう」……。
そして設計者に図面を戻しに行っては、議論を交わす。そのうえで設計者に図面を修正してもらう。こちらもふたたび図面を戻す事態になっては時間の浪費だから、その場で何度も見直す。一見、この非効率に思える仕事がモノづくりの現場を支えていたのは間違いない。
しかしそれでもなお図面に問題が残るケースがある。そのようなときは、いつも寿命が縮むような一言をあびていた。
「このままだと製品の立ち上げに間に合わないぞ」
iPhoneは納期遅れが生じるのか
先日の報道によれば、米アップルの「iPhone」について新型の発表が遅れてしまう可能性があるという。それも理由は、サプライチェーンにおける部品調達が難しくなっているからだ。
別の記事によると、この新型のiPhoneは、スティーブ・ジョブズがスマートフォンを世の中に出してから10年目となるモデルだ。この新型で注目されるのは、ディスプレイで、それには有機EL(OLED)が使用される。その際、このOLEDは、ライバル会社のグループであるサムスンディスプレイ製を採用しているという。これは他のサプライヤーの量産準備が整っていなかったからだ。
この“売り”となるOLEDのはずだったが、ここにきてサムスンディスプレイ側も供給不安が生じている。ややこしいのは、本体のサムスンもこのOLEDを採用するスマートフォンを生産することだ。スマートフォン同士でアップルとサムスンは激しい闘いを繰り広げているが、当初の段階でOLEDは、サムスンディスプレイのそれを活用しあう構図になっている。
なお、アップルがサムスンを活用するリスクについても、多く報じられている。特に、ディスプレイという目玉機能について、他社と連携した技術開発で先行できないリスクについて論じているものがある。
ただし、スマートフォン同士で争っているから、意図的にサムスン側がOLEDの供給を遅らせているわけではない。あくまでも実際の生産歩留まりが問題のようだ。もちろん、限られているなかで、どちらに振り向けるかを悩んだら、アップルよりもサムスンを優先するとは思うが。
サムスンの「Galaxy S8」も、前モデルのバッテリー発火事故のあととはいえ、売れ行きが好調だ。現時点では1社依存はしかたがないものの、今後、OLEDの供給動向がスマホの出荷も左右することから、注目せざるを得ない。
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