坂口:それもあるでしょう。ただ、やはり、人間が発するささやかな仕草など、なぜか近くにいないと体感し得ない情報はまだあります。人間の雰囲気と、匂いをも含めた何か。テレビ会議で受け取る情報量よりも、接したときの情報量が圧倒的に多い。

 私は、日ごろ、ほとんど会議に参加しません。ふだんのやりとりもメールで十分だと思っています。しかし、チームワークは別で、メンバーの窮状を含めた心理的な状態を知るためには身近に接したほうがいいと思うんです。IT企業でも同じことをいっている経営者が多いようです。

沢渡:わかるんですが、真逆も認識したほうがいいです。エンジニアの中にはチャットとか非対面のほうが自分の本音を言いやすい人、伝えやすい人が少なくない。対面だと、やっぱり目上の人に物を言いづらいとか、相手の時間を取ってまで情報発信しても仕方ないんじゃないか、煙たがられないかと思いがちです。話すのが苦手なエンジニアもいる。ただ、チャットだと意外なほどフランクに「実は会議で私はこう思っていました」とか、「若手はこういう混乱があります」だとか、言ってくれている部下がいます。対面しないことで、コミュニケーションの助けになるわけです。

 ある大手SI企業でこんなエピソードがあります。その企業では、いわゆる失敗プロジェクトの分析をしたのですね。各工程の品質レビューの判定会議資料を見る限りは何ら問題ない。すべて青信号。しかし、いざ完成してリリースしたら火を噴いた。資料からはなぜ失敗したのか分からない。でも、開発者同士がコミュニケーションツールとして使っていた「Slack」には、みんな本音を書いていたんです。「この性能じゃヤバいでしょ?」「どこをどう判断したら青信号出せるのよ!?」と。人間、そんなもんです。その企業の失敗分析チームは、いま一生懸命「Slack」のチャットログを分析していますよ。

坂口:でも、その話だと、「Slack」があるにもかかわらず、結局は不具合を止められなかった、ということでしょう。ならば、そのようなデジタルなコミュニケーションツールは、むしろ、ガス抜きにしか役に立たない、と意味しているのではないんですか。「Slack」にそんなに書き込んでいたら、開発を止めてもよかった。

沢渡:でも書き込まれているのですから、これをどう使えるかを考えればいいと思っています。

坂口:ううん。私は、対面のほうが意見を言いづらい、というのは、ちゃんと検証したほうがいいと思いますよ。対面で意見を言いやすくするのが、むしろマネジメントの責任だと思いますしねえ。

沢渡:いやいや。対面で話すのはニガテ。これはエンジニアのメンタリティーではないでしょうか?

坂口:エンジニアこそ逆説的に、これから対面能力と調整能力が必要となってくると私は思うのですが。ただ、メンタリティーについては、傾向を断言できるデータもないので保留しておきます。

働き方改革の行き着く先

坂口:それで、働き方改革の目的について、話を戻します。たとえば間接部門が付加価値を高めようと議論すれば、とたんに思考停止をしてしまいます。同じアウトプットを、少人数でやる、とすれば人員数削減につながるだけです。

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