働き方改革が企業で叫ばれて久しい。経営コンサルタントや業務改善士なども、企業の働き方改革に加担する。私(坂口孝則)もこのテーマでコンサルティングや講演などで企業に呼ばれる機会が増えた。しかし、言葉の流行とは裏腹に、真の意味での働き方改革が進んでいないように感じられる。もっと言えば、何のための働き方改革か腹落ちしないまま、言葉だけが独り歩きしている。
そこで、当領域では第一人者である沢渡あまねさんと働き方改革について議論した。対立点で言えば、私は保守主義者で、沢渡あまねさんは進歩主義者といっていいと思う。多くの議論がかみ合わなかった。それは、私が労働の苦労と成長という幽霊を信じているのに対して、沢渡あまねさんが労働の刹那と愉悦を信じているからだろうと私には思われた。このちぐはぐな議論が、読者の思考を促すことを思ってやまない。
企業の働き方改革の実態
坂口:この1年ぐらいで、働き方改革について何か話せ、と呼ばれる機会が多くなりました。私の場合は、ほとんど大企業ばっかりですけどね。面白いなと思ったのが、質問で「空いた時間で何をすればいいと思いますか」って言われるんですよ。きわめて今のゆがんだ状況を示しているような気がします。本来なら、何かをしたいから改革するはずなのに、何か目的と手段が逆転している。

あまねキャリア工房代表。オフィスコミュニケーション改善士。
日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社などを経て2014年秋より現職。
「無理なく」「無駄なく」をモットーにした組織改革(ワークスタイル変革)、業務改善、個人のビジネススキル強化のため業務支援・研修・講演・執筆活動などを行っている。著書に『職場の問題地図』『働き方の問題地図』(いずれも技術評論社)など。
沢渡:私は、生産性を高める観点を管理職なり社員に持ってほしいとお話ししています。あるいは、働き方改革はあれこれ取り組みを進めているけど、やっぱり何かまだ変わっていく実感がない、有効な取り組みができていないので、そういったこれからの考え方とかを教えてほしい、一緒に考えるきっかけをつくってほしいといった依頼が多いですね。
坂口:でも、結局、何をしたいかが明確じゃなければ意味がないでしょう。考え方っていっても、それって外部から教えてもらうべきなんでしょうか。そういう企業は、そもそも働き方改革が必要なんですか。ちゃんと自分たちが要件を定義する、講演の依頼改革が必要なのでは。
沢渡:しかし、コミュニケーションとか、あるいは仕事のやりがいだとか、あるいは若手のモチベーションだとか、こういったテーマは考えなければいけないでしょう。楽しく仕事をするのは今日的に大事な問題です。
坂口:ということは、生産性は変わらないし、付加価値も変わらないし、働いている時間も一緒なんだけど、幸せになったらOKみたいになってしまうでしょう、極端な話。
沢渡:そうですね。
坂口:え? それでいいんですか。
沢渡:だから、極端な話ですよ。ただ、昔と大きく違っているのは、やはり少子高齢化という問題が顕在化してきた点だと思うんです。つまり、結局、やりがいがある、もっと言ってしまえば、楽しいとか得しているとか、社員は感じたい。得する職種なり会社じゃないと、もう人は集まらなくなってきているんですね。
坂口:なるほど、それが私たちの対立する理由ですか。私は、働き方改革の先を考えろ、と言うんですけれど、考えなくてもいいと。社員が楽しかったり、得していたりすれば、まずは働き方改革は成功だと。同じ800万円を稼ぐのでも、時間が短ければそれでいいんだ、と。
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