先日、中国の深圳に行ってきた。中国に行くたびに、使えるサイト/アプリ、使えないサイト/アプリを確認する。香港までは何でも使えたのに、深圳に到着したらすぐにグーグルは使えなくなった。ヤフー!はトップ画面は読める。ヤフー!内にある、中国の指導者について伝える記事も読めた。しかし、検索はできなかった。
また、LINEも難しい。Facebookもダメだ。ツイッターもできない。スマホのショートメッセージは大丈夫だったものの、やはり、Gmailベースで仕事のやりとりをするのは難しい。もちろんVPNを工夫したりSIMカードの種類を選んだりすれば、グーグルを使える。ただ、不便であるには違いない。
意外だったのは、gooは問題なく使えたことだ。NTTのgooは中国当局からすると規制するべき対象ですらないという意味か。
深圳は、ものづくりスタートアップにあふれている。通行人たちも若い。インキュベーションセンターにもいくつかお邪魔した。ビルには所狭しと、ベンチャー企業が並び、喧々囂々(けんけんごうごう)の議論を交わしている。そして、隣接したカフェでは、ドローンをテーブルに置きながら、改善をディスカッションしていた。
街中には電気自動車があふれ、シェアリング自転車があちこちにある。次々にビルが建設されている。物価も上昇し、地下鉄も充実してきた。私は年齢的に日本の高度成長期を経験していないが、異常な速度で発展する街に身をおくことは面白いのだろうな、と思った。
しかし、それにしても、中国に来ると、自分自身が米国系企業のサービスにいかに依存しているのかと驚く。中国では、外資ではなく、まず自国企業を育て、そこから世界に羽ばたかせる。そのぶん、繰り返しだが、彼らはグーグルやフェイスブックのサービスを享受していない。
私はいつも、奇妙な想いにとらわれる。
これだけ産業が発展しているのに、まだ、ひとびとは自由にアプリ程度も入手できない。それが中国当局のうまさ、と思うべきか。あるいは、不自由と考えるべきか。いや、大統領がツイッターで好き勝手をいう国と、どちらがいいのだろう。
私はまったく中国語を解しないが、ホテルのテレビで映っていたトランプ大統領を見ながら、そんなことを考えた。
一企業を詐欺師と呼ぶ大統領
アマゾン・ドット・コムや創業者のジェフ・ベゾス氏に対し、トランプ大統領はしばしば口撃をしかけてきた。アマゾンは、グローバル企業の代表として対象とされやすいのだろう。また、大企業の税金逃れについて国民の不満が高まる中、批判の矛先として仮想敵にしやすいのかもしれない。
大統領、あるいはそのスタッフは、アマゾンの税金回避策について何度も言及してきた。「すげえ、こんなことよく書いたな」と私が思ったのは、トランプ大統領のツイッターだった。「ワシントン・ポストという、もう運が尽きた企業を、税金を下げる目的で利益を出さないアマゾンのジェフ・ベゾスが有している」とまで書き、さらに、アマゾンとジェフ・ベゾス氏に、それぞればっちりアカウント名を書いてメンションを飛ばしていた。
そして、今回もまたトランプ大統領が口撃を再開した。今度は、アマゾンが不当に安価に配送しているため、アメリカ合衆国郵便公社に損害が出ているという。しかしそれにしても、大人なのだから、違法に配達しているわけではない会社に対して「郵便詐欺師(Post Office Scam)」呼ばわりするのは、さすがに言い過ぎではないか、と私は思う。
トランプ大統領のつぶやきによると、具体的にはアマゾンの荷物を運ぶためにコストとして一つにつき郵便公社は1.5ドルが赤字になっているという。私が考えるに、それはたんに契約書が不備だったか、実態を把握していなかったミスにすぎないのではないか。しかし、大統領は許せないようで、立て続けにつぶやいている。最初は、1.5ドルを説明し、その後に、前述の郵便詐欺師に行き着く。
トランプ大統領のアマゾンぎらい
日本で報道された、このところのトランプ大統領と企業がらみといえば、Facebookの個人情報が漏れ、そして大統領選挙戦に活用されたニュースだ。現在、Facebook離れが加速するのか、あるいは同社が踏ん張るのか見ものだ。しかし、トランプ大統領は、Facebookよりもアマゾンのほうが嫌いのようで、ある種の執拗ささえ感じられる。
ジェフ・ベゾス氏にしてみると、大統領から口撃されるデメリットは、株価下落の形で表出する。ビジネス環境上、大統領がリスクともいえる。大統領の一言で、株価が数パーセントも下がってしまったらたまらない。
実際に同社の決算には、繰り返し、政府の規制がリスク要因であると書かれている(Government Regulation Is Evolving and Unfavorable Changes Could Harm Our Business)。
また、そのままストレートにタイトルにしている記事「トランプが嫌っているのは、Facebookではなく、アマゾンだ(Trump hates Amazon, not Facebook)」では、その背後にはトランプの支持基盤とビジネス上の問題がある、と指摘する。つまり、地方の小売店がアマゾンの影響で倒産してしまう可能性を考慮し、これ以上アマゾンを野放しにできない。また、トランプ大統領の“お友達”は不動産やショッピングモールなどを経営するから、それもアマゾンの登場によって淘汰される対象として映る。
これらの事情が重なり、トランプ大統領はなんとか独禁法がらみでアマゾンを制約できないかと考えるのは当然だった。それに、アマゾンのジェフ・ベゾス氏は、メディアであるワシントン・ポストも有している。これはある種、ジェフ・ベゾス氏がトランプ大統領を叩く武器としても映る。実際には編集権は株主から独立しているだろうが、権力を監視する仕事があるのは間違いない。
ところで、少しだけ話が変わるが、私は不動産業者がアマゾンを恐れる、というのは正しい認識だと思う。というのも、アマゾンは行き着くところ、不動産仲介ビジネスで業界を破壊するだろうから。
アマゾンと大統領の今後
アマゾンは決算書を開示するたびに、その税の優遇について言及されてきた。最新のそれについても、さまざまな回避策を活用し実質税率を引き下げていると指摘されている。
州によって税率が違う場合、フルフィルメントセンターや倉庫機能がある州と、本社機能・営業機能がある州との税率の違いをどのように解釈すればいいのか。また、国をまたいだ電子書籍等との取り扱い。これらは徐々に法制度や解釈が固まってくると思われる。
また、アマゾンが意図的に低い価格に抑えることによって、市場全体の競争を阻害していないか、反トラスト法を犯していないか、など、トランプ大統領以外からも注目をあびている。
しかし、基本的に安価であれば、それは消費者のメリットそのものだ。また、利益を独占しているかというと、利益はかなりの部分を再投資にまわし、むしろフルフィルメントセンターなどで中小事業者のインフラとなっている側面もある。
情報調査会社の「GBH Insights」は、アマゾンの環境について危機を表明しながらも、同社のビジネスモデルが変わることはないため、パニックに陥ることはないとしている。
トランプ大統領は、関税などの政策を見る限り、旧来的な経済政策を好むように感じられる。対象的なアマゾンと、どのように対峙していくのか。注目される。
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