「ずさんさ」を生んだ真因

 もう少し、なぜ「ずさん」だったのかを掘り下げて考えてみる。日本年金機構のホームページには「調達情報」がある。このページの「各種方針」には「日本年金機構の中小企業者に関する契約の方針」が年度ごとに作成されている。最新の平成29年版には、おおきく4つの項目で調達活動の考え方が示されている。その方向性は、随意契約の防止と中小企業・小規模事業者の受注機会の提供だ。この2つから、結果的に広く中小企業・小規模事業者にまで間口を広げた一般競争入札が行われたと想像できる。

 こういった方針は素晴らしい。しかし、実現には高度な調達管理の実践が必要だ。中小企業の受注拡大を目指し、一般競争入札の結果で業者を選定するには、発注内容の実現性に関する事前審査が欠かせなくなる。上場企業のように一定の企業規模と事業内容が公開されていれば、ある程度の確認作業はウェブ上でもできる。しかし中小企業の場合、ウェブ上の確認に加えて、対象企業を訪問して実際に能力の有無を確認するプロセスが欠かせない。こういったサプライヤーの実態を適切に事前確認するリソースが日本年金機構の内部に確保されていただろうか。

 加えて、各地の年金事務所や事務センターで消費される調達では、拠点管内の中小企業・小規模事業者を含めたり、人件費比率の高い役務契約では、複数回の支払い努めたりといった内容が含まれている。こういった方針は、公共調達の観点では、地域振興や経済の活性化へつながるメリットもあるだろう。

非効率な業務を強いる気高い契約方針

 一方で、集中購買や業務処理の効率性追求の側面では、すべてデメリットになる。発注先選定に代表される調達業務は、制約条件がないほど自社に有利な調達が可能になる。日本年金機構の調達部門は、非常に確認作業の多い、事務手続きの煩雑な調達業務を強いられていた可能性が高い。役務契約の月払いなど、どこまで業務が完了したかの判断は、民間企業の調達部門でも、難しい判断を突きつけられる。実務者であれば、できれば回避したいのが本音だろう。自ら掲げた方針が、調達業務を過重かつ複雑にしていた可能性がある。

 日本企業の調達部門は、多かれ少なかれ同じような状況に置かれている。人手不足により人員補充もままならない中で、コストに代表されるサプライヤーへの要求事項は高まり、同時に持続的な調達に代表される社会的責任の全うも、自社のみならずサプライヤーにも要求し、満足する調達を実現しなければならない。こういった取り組みを、広く受注を募って一般競争入札で実現するのは、かなり高いハードルなのだ。

自ら高めてしまうリスク

 高らかに方針を掲げ、方針に基づいて行う仕事に異議を唱えるつもりはない。しかし、方針を実行するためのリソースが質的にも量的にも伴わなければ、それは自ら掲げた方針がリスクとして自社内に残ってしまう。日本年金機構自体が意識していたかどうかは不明だが、かなり高度な調達業務の実行を目指していたのだ。しかし、結果的に契約を守らないサプライヤーを見抜けずに今回の事態を招いてしまったのである。

 だからといって方針を掲げずに身の丈にあった調達を実行するだけでは足りないのも現実だ。今、企業に求められる調達業務は質的にも量的にも高度になっている。身の丈そのものを高めなければ、市場で生き残れない。生き残るために、倫理的に、持続可能性的にも、遜色のない調達方針を掲げた企業は実に多い。そういった取り組みは、発注先であるサプライヤーへより高く、より多くの要求を強いる結果になる。言いっぱなしで内実が伴っていない場合、せっかくの高らかな方針が一転してリスクへと変貌する事実を、今回の問題は示しているのである。