私はかつて製造業で調達・購買業務に従業していた。新卒で入ったその世界は、きわめて奇妙に思えた。調達は、取引先と価格を決め、そして取引先を指導するものだという。しかし、私が見たのは、業務のほとんどを納期調整に追われる先輩の姿だった。

 製造業では、もともと取引先を決める際に、価格だけではなく品質だけでもなく、標準納期を調査する。納期遵守率なる取引先評価尺度があるが、これは、「納期通りに納品された年間注文件数」を、「年間注文総数」で割ったものだ。例えば、0.9であれば、9割の注文品を納期通りに納品いただいたことになる。

 よく使われるこの納期遵守率は、まともにやると、0.2とか0.3とかいった低い数字になる。取引先が悪いわけではなく、多くの場合、発注者側があまりに短納期注文を重ねるからだ。「明日持ってきてくれ」といった注文ばかりが目立つ。あるいは、そんなに早く納品されないとわかっていても、「とにかく早く納品してくれ、と意思表示をするため」といったよくわからない理由で、ありえもしない短納期で注文する。

 新人の私が見た光景は、ひたすら取引先に電話をかけ、一つひとつの注文について納品期日を調整する先輩たちの姿だった。前述の通り、もともとは標準納期をふまえて取引先を決定しているはずであり、生産システムに莫大な投資をしているはずなのに、現実は人間が人間をなんとか籠絡して綱渡りする日々だった。

調達業務におけるソーシングとパーチェシング

 やや専門的になるものの、企業の調達業務を二つに分ければ、ソーシングとパーチェシングになる。前者は契約業務と訳されることもある。つまり、取引先を見つけてきて見積書を入手して価格交渉したり条件調整をしたりする仕事だ。後者は、調達実行と訳され、発注書を出したり、納期調整をしたりする。

 一部の例外企業を除けば、このソーシングとパーチェシングは同一の担当者が担う(自動車メーカーなどでは、この二つの業務を組織として分離している場合がある)。本来は、戦略的な業務であるソーシングの時間比率を上げていくべきだが、現実的には業務のほとんどを後者・パーチェシングが占める。納期管理は、期日に納品してもらって当然だから、付加価値はほとんど生まない。

 会社によっては、生産管理の人員が「納期フォローリスト」を作成し、朝に調達部に持ってくる。調達人員はそれを見ながら、上から順に電話を繰り返す。

 私が入社したとき、調達部員の条件は、腕の力が強いことだ、といわれた。理由は、発注伝票を毎日100枚ほど書くことになるのだが、6枚複写になっているため、とにかく腕が疲れるからだという。そしてもう一つの理由はずっと電話を握りしめるため、電話を離さない握力が必要だからだという(私が入社する前年にシステム化が行われ、私は非力社員1号となった)。

ロボットは助けになるか

 しかし、上記のような光景はそれこそ昔話になるかもしれない。

 米SAP Aribaは先日、AIロボット「Procurement」を発表した。これは先行する米アマゾン・ドット・コムのアレクサ、そして米アップルのSiriのようなものだ。このロボットを使えば、購入者側の意図を拾い、サプライヤー側との連絡が可能となる。

 機械学習を活用することで、発注者側の会社方針も踏まえたうえで処理を行えるという(“Leveraging machine learning, the bot will be able to train and learn about a user's preferences and a company's policies and procedures and guide actions in line with them to reduce errors and speed processing.”)。SAPはこれをインテリジェント・デジタル・アシスタントと呼んでいる。ウェブベースで提供される。