サプライチェーン上で不可欠な役割とは

 シャープに限らず、高い人件費で悩む日本国内の工場が、サプライチェーンの中で自社の役割を維持するのは至難の業だ。外国為替レートが円高から円安基調へと移行した2014年以降、円安によってドル評価したときの日本の人件費負担が相対的に減少した。この環境変化によって日本国内に生産回帰の期待が高まった。

 しかし、ただ人件費が安くなったからといって、海外へ流出した工場が国内へ戻ってはこない。国内へ工場を回帰させるには、サプライチェーン上でどのような価値を生み出すか。国内工場に従来にはなかった新たな価値が必要だ。事実、サプライチェーンから日本がレスされないように、必死に踏ん張っている例もある。

国内生産回帰で見えた変化

 2015年に日本国内への生産回帰の機運がにわかに沸き起こった。当時大きく報じられた企業の共通点は、サプライチェーンにおける自社の国内工場の役割を再定義する動きだ。キヤノンの場合、当時国内と海外の生産比率40対60を3年かけて逆転させる計画を公表した。国内の生産比率が40%から60%へ拡大すれば国内雇用が増える、そう考えるのは早計だ。キヤノンが増やす20%の国内生産の目玉は「無人工場」にある。人件費の変動による影響を減少させ生産の国内回帰を実現させる。

 TDKでは、秋田の工場をグローバル展開に必要なノウハウの開発と蓄積を行う「マザー工場」として位置づけた。これまで日本国内の生産で培ってきたノウハウを使って、更に高い生産技術を獲得するための拠点にするのだ。

 両社の場合、取り組みは違っても根底にある考え方は共通している。サプライチェーンに、国内のリソースを従来とは違う方法で組み込み、あるいは活用する点だ。生産方法を見直して、サプライチェーンに直接組み込める拠点か、サプライチェーンの高度化をサポートするノウハウを生み出す拠点の違いだ。国内の拠点をサプライチェーンに積極的に組み込むには、明確なビジョンに裏打ちされた取り組みが不可欠だ。新たな取り組みには、様々な障害やリスクがある。しかし、自ら違いを打ち出した行動こそ、競合他社と比較した優位性の源泉になるはずだ。

 キヤノンやTDKが実践している無人工場や高度な生産方法の適用範囲が広がれば、現在の新興国の経済が発展し人件費が高騰しても、相応のアウトプットが可能になる可能性が出てくる。自転車操業的なグローバル展開を終演させるためにも、人件費が高騰し生産リソースを海外へ移転させる場合、日本をコピーするだけではダメなのだ。日本が経済的に発展し人件費アップによって労働者の生活が豊かになるプロセスは、新興国でも同じように発生する。であるならば、今日本で起こっている問題は、将来的に現在の新興国で同じように発生する。また別の新興国を探すのか、それとも新たな生産方法で乗り切るのか。現在の場所にとどまって、難局を乗り切る方法論があってもよいはずだ。

働き方改革が労働者におよぼす影響の本質

 変化する経営環境に適応するために、企業で働く労働者にも変化が必要だ。働き方改革の本質は、単位時間当たりに創出する付加価値アップだ。今の同じ業務内容で、残業時間が減って、給料がアップするはずがない。同じ仕事だったら、給料は減少するだろう。今まで1時間かかった仕事を30分でやるための方法論の発見や、仕組みの構築が不可欠である。1時間かかっていた仕事を10分でできれば、1/6の人件費の国と競争できる。そういった競争力を維持できる新たな労働の姿を生みださなければ、真の働き方改革は実現しないのだ。

 経営環境の変化によって、これまで企業はより人件費の安い立地を求めて海外進出を繰り返してきた。海外進出して収益をあげ日本企業として生き残る手段もあるだろう。しかし、進出先は有限だ。日本は人口が減少するといっても、最新の推計では2060年に8674万人もの人々が暮らす国だ。安い人件費で雇い入れられる労働力を求め続ける自転車操業のグローバル展開に終止符を打つためにも、国内のリソースを活用する道を探ることこそ今、日本企業に求められ、サプライチェーンの日本レス化を防止する手段となり得るのだ。