
3月15日、一部の新聞が、シャープが液晶テレビの亀山工場での生産を2018年に終了させると報じた。同日シャープ首脳は、亀山工場で生産した液晶パネルを使って、80型以上の大型液晶テレビの生産体制を維持する方針を明らかにし、国内生産の撤退を伝えた一部新聞の報道を否定した。このニュースが大きく報じられた背景には、すべての日本企業が抱え、根本的に解決しなければならない問題がある。グローバルに展開するサプライチェーンにおける「日本レス化」だ。
アメリカも直面した問題
サプライチェーンから「レス化」される問題は、何も日本にだけ起こっているわけではない。アメリカのトランプ大統領も、サプライチェーン上におけるアメリカ国内にある様々なリソースの位置づけが弱まっている状況にストップをかけようとしている。アメリカはITの進化によって新興企業が次々と誕生し、もっともグローバルサプライチェーンの恩恵を享受してきた国だ。
しかし、自国以外の安価な労働力に代表されるリソースを活用して発展した結果、国内消費を支える中間層の仕事が奪われ、失業率の上昇によって購買力が減退した。企業は減退した消費者に応えるために、より安さを求めて更に安い人件費の国へと進出する。グローバル化とは、企業展開の自転車操業の様相を表しているかのようだ。走り続けないと、企業の発展はストップしてしまうのだ。
働き方改革の影で欠かせないこと
同じく国内の高コスト化によって、中間層の所得水準の低下に悩む日本。現在具体化しつつある「働き方改革」で実現を目指す様々な施策によって人件費負担がアップし、高コスト化を是正するより拍車をかける可能性がある。それでもなお「働き方改革」を推し進めるのは、人々が使えるお金と時間を増やし、個人消費を喚起した結果で実現する日本経済の浮揚だ。しかし、想定されるプロセスには、極めて実現の難しい課題が山積みしている。中でも、国内に存在する企業のリソースを、サプライチェーンの中でどのように維持・活用するかが最大の課題である。
冒頭の例でシャープは、80型以上の大型液晶テレビの生産体制を亀山工場で維持するとしている。JEITA(電子情報技術産業協会)が毎月発表している薄型テレビの2017年1月の国内出荷実績を参照すると、販売全体に占める50型以上のテレビの出荷数割合は18%となっている。売れ筋はひとつ小さいカテゴリーの37型から49型だ。亀山工場で生産する80型は、価格.comでも1台130万円以上(3月22日現在)、1インチ当たり単価でも60型と比較して5倍以上の販売価格だ。現時点での価格から判断すれば、80型より大きなテレビを亀山工場で生産する決定は妥当かもしれない。
しかし、2014年以降同社を襲った経営危機は、想定よりもはるかに速いスピードで起こった液晶テレビの価格下落によって、莫大な投資の回収が大きな負担になったのが1つの要因だ。今後80型以上のテレビの価格が現状を維持するのか。それとも、より小さなサイズと同じインチ当たり単価に近づいてゆくのか。今回報じられた内容を否定したシャープは、亀山工場で生産する妥当性を追及し、より高い付加価値を創出して価格維持に努めるか、価格競争に勝ち残る妙案を見つけなければならない。シャープが構築する液晶テレビのサプライチェーンで、亀山工場が生み出す価値を維持・拡大しなければ、今回の報道がいつか到来する未来を予見する記事になってしまう。
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