水資源の豊かな日本にいると、この水ビジネスの隆興について、あまり実感を持てないかもしれない。水があまりに安全に、そして大量にある私たちにとって、その貴重さすら再認識することはない。

 しかし、例えば2008年に公開された映画『007 慰めの報酬』であってすら、ジェームス・ボンドが対決する組織は原油ではなく水を利権として世界を制覇しようとしていた。

サプライチェーンの水使用量に注目せざるをえない時代

 企業はいち早く、この水に注目したビジネスを本格化している。カタールでは、三菱商事が海水淡水化の大型設備を導入し、電力と水を共につくるプラント事業を開始した。

 その一方、企業活動のプロセスにおいて、限られた資源である水を、これからいかに抑えるかが注目されるようになってきた。それは自国内製造分にとどまらない。というのも、日本の工場だけで使用水量が少ないといっても、海外サプライヤーの使用量が多かったら意味がないからだ。

 特に水資源の乏しい国で大量の水を使っていれば、ほかへの影響が避けられない。生産プロセスが大幅に変わらなければ、どこのサプライヤーから調達しても同じと思うかもしれない。ただ例えば、水資源の乏しい国から調達するよりも、豊かな国から調達したほうが、サプライヤーが同じ量の水を使用していたとしてもまだマシだ。もちろん、調達地を変更すると同時に節水に努めればいい。サプライチェーン上の節水に、積極的に取り組めば、企業イメージが向上する。

 数年前のレポートではあるものの、「ピークウォーター:日本企業のサプライチェーンに潜むリスク」(2012年、KPMGあずさサスティナビリティ)というきわめて面白い報告書がある。同報告書では、日経225銘柄の企業が、どれほど水を使用しているかを調査している。興味深いのは、自社使用だけではなく、サプライヤーの使用量までも推計している点だ。

 それによると、日経225銘柄企業の水の使用量は190億立方メートルだが、サプライヤーのそれは600億立方メートルに至るという。つまり水使用量の76%は、サプライヤーが使用していることになる。ということは、前述のとおり自社管理だけではほとんど効果はなく、サプライヤへーの節水教育がこれから必要になっていく。

 特に工業製品のセグメントでいえば、サプライヤーの使用量が9割を占めているから、この量を削減することなしには進まない。

各社の取り組み

 例えばコカ・コーラは新興国への展開に積極的であると知られている。同社はやはり水に対する取り組みも先鋭的だった。いち早くNGO(非政府組織)と連携しサプライチェーン全体の水使用量削減に努めている。ネスレやペプシコなどの食品関連メーカーも同種の取り組みを行っている。

 日本メーカーも、ソニーが主要取引先と節水目標をもち、必要に応じて節水支援を行っていく(日経新聞朝刊2016年1月13日付)。排水や雨水の利用を推進することで、自社工場では使用量が6割も減った実績がある。

 その他、キリンは茶葉生産サプライヤーに水質管理認証資格を取得させることで、適切利用を促す。横浜ゴムも海外サプライヤーに節水指南を行い、調査結果をサプライヤー選定に活用する。

 もともと日本は節水うんぬん以前の話として、漏水率がきわめて低い。先進国の中でもトップクラスで東京都ではわずか3%しかない。料金徴収率も99.9%となっており、日本の産業と生活を支えている。この技術は輸出できるはずで、日本が世界に貢献できる余地はまだまだある。

 悪の商人たちは、地球温暖化に乗じてビジネスを拡大していくかもしれない。しかし、日本は限られた資源をうまく、そして効率的に使う、という手法自体を輸出していく。実際に東京都水道局はミャンマーにたいして水道のノウハウを伝授している。

 水資源の減少に呻吟する世界で、実は日本の活路はこんなところにあるのかもしれない。