そんな中の2011年8月、ボストン コンサルティング グループが衝撃的なレポートを発表した。「Made in America, Again」と題され、当時日本でも、この内容が多方面で引用された。レポートでは、次の2つの点が強調された。

・中国の賃金上昇、米国の生産性向上、ドル安などにより、北米市場向け製品のうち多くは、米国で生産した場合と中国で生産した場合とのコストの差が今後5年以内にほぼなくなる見込み

・米国南部と中国揚子江デルタ地域の賃金を、生産性を加味した上で比較すると、2010年には中国揚子江デルタ地域の賃金は米国南部の41%だったが、2015年には61%へ上昇

 しかし2016年となった現在まで、米国への生産回帰が進んだのは、オバマ大統領が明確な政策を打ちだした2011年のみ。以降、生産回帰は進んではいない。正しくは次の2つの理由によって「生産回帰できなかった」のが現実だ。

戻せず再構築を迫られたサプライチェーン

 生産が海外へ流出すると、雇用やサプライヤーといったリソースなど鎖のようにつながっていたサプライチェーンが失われる。携帯電話や自動車といった上流の生産を戻したいと考えても、サプライチェーンを構成する要素であるサプライヤーが、生産の海外流出とともに米国内から消えたのだ。結果的に、元々生産していた状態を取り戻せずに、新たに社内外のリソースを構築しなければならなかった。労働者も生きてゆくためには他に働き口を求めていたので、過去の生産にまつわるノウハウの蓄積が生かせなかった。新たに雇用した従業員は、改めてトレーニングが必要だった。サプライヤーは失われた生産を穴埋めすべく、製品の転換や、顧客業態を変更して生き残りを計った。

 こういった生産の海外流出後の生き残りを懸けた取り組みによって、かつての購入取引を復活させようとしても思う通りに進まず、新しいサプライヤーを開拓し取引を開始したケースが多かった。生産回帰は、生産の海外移転によって失われた売り上げが回復した側面のみで、生産の実態は、新たな生産の立ちあげと変わらなかったのだ。

 新たに生産を立ちあげられればまだ良い。iPhoneの背面に刻印されている「Designed by Apple in California Assembled in China」は米国製造業の海外進出方法を象徴している。製品開発は米国で行って、製造は中国の製造委託先で行うビジネスモデルだ。iPhoneは最新モデルの6Sまでこのビジネスモデルで生産し全世界に供給している。新たな機種の登場により、追加や変更されているのは機能面だけではなく、生産技術の面でもさまざまなノウハウを中国側で蓄積している。

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