メイシーズは「私たちは、彼とのビジネスを停止せざるを得ないと決めた(we have decided to discontinue our business relationship)」と述べている。トランプ氏はトランプ氏でインスタグラムにメッセージを掲載した。それによると、トランプ氏もメイシーズとの取引中止を望んでいる。さらに、ネクタイとシャツが中国製であることについて、喜ばしいと思ったことはない、とまで語った。トランプ氏は新たな商品ラインナップを予定しており、それらはすべて米国製にするのだという。

 売り言葉に買い言葉、といった気がする。メイシーズは、トランプ氏のメンズウエアを2004年から販売している。決して短い関係ではないものの、トランプ氏は一転し支持者に、メイシーズでの不買(ボイコット)を勧めている。

 有名人の商品を置くことは小売店にとっても安価なマーケティング手段となりうる。しかし、その有名人が小売ブランドを傷つけるとなれば引きあげる。その意味で、メイシーズの反応は経営的に正しい判断だったといえるだろう。

 そして、次にトランプ氏は、米アップルを引きずり出して問題を引き起こした。

アップルが米国でiPhoneを作らないのは悪いことか

 トランプ氏は先週、アップルについて言及した。早い話が、アップルが米国で商品を製造してほしいと願っているという。これは彼が主張したメイドインUSAを増やすことにも、米国への労働回帰にもつながる。

 「私は労働を引き戻す。私はアップルに、コンピュータやiPhoneを中国ではなく米国で生産させる("I'm going to bring jobs back. I'm going to get Apple to start making their computers and their iPhones on our land, not in China")」とまで語った。これは、大統領候補が、一企業の生産システムやサプライチェーンに口出しして行政指導する可能性があることを表す、かなり大胆な発言だ、と私は思う。

 しかし、iPhoneという固有名詞を使って、またしても大衆受けを狙ったようにも思われる。さらに読者の中には、いまさらかよと感想を抱いた人もいるだろう。この話題は現職のオバマ大統領も掲げたテーマだったからだ。

 2011年にオバマ大統領は、当時のアップルCEOスティーブ・ジョブズとディナーで話し、iPhoneの生産を米国に戻せないか質問している。なぜならば、アップルはもともと自社商品が米国製であることに誇りをもっていたからだ。ジョブズは、単に労働コストの優位性からではなく、柔軟性や効率性の点からも、とても米国には生産を戻せないと“力説”した。

 中国人の勤勉性は、ときに米国人が想像するそれを超えている。2011年に喧伝された優位性は次のようなものだ。iPhoneの製造不良が見つかったとき、すぐさま鴻海精密工業の中国工場ではリカバリー対応がなされた。真夜中から始めざるをえなかったオーバーホール(修理)では、8000人の従業員が叩き起こされ、ビスケットとマグカップの紅茶が与えられ、30分以内に作業が開始、そこから12時間シフト労働が交代で96時間ほど続き、1万台以上のiPhoneができあがった……。

 ここまで仔細な話をオバマ大統領が聞いたかは分からない。ただ、事実として米国へiPhoneが生産回帰することはなかった。また、iPhoneに限らず、デバイス類の90%以上は東アジアで生産されている。アッセンブリを米国で担わない施策はこの点からも正しかった。

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